テクノロジーと芸術の交差点――SXSWアートプログラムの魅力とは

こんにちは、SXSW Japanの宮川です!SXSWはテクノロジー、映画、音楽の祭典として広く知られていますが、その一方で、デジタルアートやインタラクティブ(双方向的)な芸術作品が展示される「アートプログラム」も非常に魅力的なプログラムの一つです。今回は、2017年から2024年にかけてSXSWで展示された注目のアート作品やアーティストについてご紹介します!

Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

宮川麻衣子

Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

宮川麻衣子

 

SXSWアートプログラムは、デジタルアートやインタラクティブな(空間をアートとして表現する)インスタレーション作品を展示する、SXSWの中でも特にクリエイティブな企画です。テクノロジーと芸術が融合することで生まれる新しい表現方法を探求し、アーティストや技術者たちがそのビジョンを世界に向けて発信します。
このプログラムは、単なるアート展示にとどまらず、観客に双方向的な体験を提供することを重視しています。デジタル技術を駆使した作品が多く、観るだけでなく、触れる、感じる、体験することができるのが特徴です。プログラム全体と通して、アートとテクノロジーの可能性を広げ、新しい形の体験を提供しています。

 

  

 

2017年から2024年にかけて展示されたアートプログラム作品のうち、特に話題を集めたものや、私が実際に現地で触れたものを紹介します。

 

Infinity Room by Refik Anadol(2017年)

 

Infinity Room by Refik Anadol - Photo by Merrick Ales
Infinity Room by Refik Anadol – Photo by Merrick Ales

Infinity Roomは、トルコ出身でロサンゼルスを拠点とするメディアアーティスト、Refik Anadolによる没入型インスタレーションです。この作品は、鏡張りの部屋を利用し、光と音を駆使して観客を取り囲む幻想的な環境を作り出します。観客は、この部屋に入ることで、自分の物理的な存在を一時的に忘れ、非物理的な世界に存在する感覚を体験します。
このインスタレーションは、現実と仮想の境界をぼやかし、視覚的なパターンが絶えず変化することで、観客に新しい視覚的体験を提供します。Anadolは、この作品を通じて、観客が日常の感覚や文化的な偏見から一時的に解放され、自分自身と周囲の世界を新たに認識する機会を提供しようとしています。作品は、世界中のさまざまな都市で展示され、多くの人々に新しい視覚と感覚の体験を提供してきました。

Conductors and Resistance by Ronen Sharabani(2018年)

 

Conductors and Resistance by Ronen Sharabani - Photo by Aaron Rogosin
Conductors and Resistance by Ronen Sharabani – Photo by Aaron Rogosin

Conductors and Resistanceは、イスラエルのアーティスト、Ronen Sharabaniによるインタラクティブなインスタレーション作品です。この作品は、観客が物理的に関与することで変化する映像と音の体験を提供します。作品のテーマは、エネルギーの流れとその抵抗です。観客は、作品に触れることで、電流の流れを模した映像が変化し、それに伴って音も変化します。このインタラクティブな要素により、観客はエネルギーの流れを視覚的かつ聴覚的に体験し、エネルギーがどのように伝わり、抵抗によってどのように変化するかを感じることができます。

FEAST by Caitlin Pickall(2018年)

 

FEAST by Caitlin Pickall - Photo by Caitlin Pickall
FEAST by Caitlin Pickall – Photo by Caitlin Pickall

FEAST by Caitlin Pickallは、ワシントン州スポケーンのLaboratory Artist Residencyプログラムの一環としてCaitlin Pickallによって制作されたインタラクティブなインスタレーション作品です。この作品は、共用のダイニングテーブルを舞台に、参加者が座ることで動き出すマルチメディアの体験を提供します。テーブルはプロジェクションのスクリーンとして機能し、座る位置によって異なる音や映像がトリガーされ、全体として一つの作品を完成させます。
このインスタレーションでは、食べ物の栽培、調理、消費に関連する写真やビデオ、アーカイブ画像が、抽象的なコンピュータ生成アニメーションと組み合わさり、視覚と聴覚に訴える「饗宴」を作り出します。参加者は、食事の場という日常的な設定を通じて、食文化の多様性やその背後にあるストーリーを体感することができます。この作品は、食事を通じたコミュニケーションの重要性や、食文化が持つ多様な側面を探求する機会を提供し、参加者に新しい視点を与えることを目指しています。

Weaving by Cocolab(2019年)

Weaving by Cocolab - Photo by Aaron rogosin
Weaving by Cocolab – Photo by Aaron rogosin

Weaving by Cocolabは、視覚と音の要素を組み合わせた没入型の体験を提供するインスタレーション作品です。この作品は、伝統的な織物の技術とデジタルアートを融合させたもので、観客は視覚的な美しさと音響のハーモニーを楽しむことができます。
Weavingでは、プロジェクションマッピング技術を使用して、織物のパターンや色彩が壁や床に映し出され、空間全体が動的に変化します。音楽や環境音が組み合わさることで、観客はまるで織物の中に入り込んだかのような感覚を味わうことができます。このインスタレーションは、伝統的な手工芸と現代のデジタル技術がどのように共存し、新しい形のアートを生み出すかを探求しています。
この作品は、アートとテクノロジーの融合を体験することができ、観客に視覚的および聴覚的な刺激を提供することで、アートの新しい可能性を示しました。観客は、作品を通じて、文化的な伝統と現代技術の交差点を体感し、アートの未来について考える機会を得ることができます。

EVERY THING EVERY TIME by Naho Matsuda(2019年)

 

EVERY THING EVERY TIME by Naho Matsuda - Photo by Matt Ward
EVERY THING EVERY TIME by Naho Matsuda – Photo by Matt Ward

EVERY THING EVERY TIME by Naho Matsudaは、日常生活のデータをアートに変換するインスタレーション作品です。この作品は、都市のデータをリアルタイムで収集し、それを詩的なテキストとして表示することで、観客に新しい視点を提供します。具体的には、都市の交通状況、天気、ソーシャルメディアの投稿など、さまざまな情報源からデータを取得し、それを解析して詩の形にします。これらの詩は、デジタルスクリーンに表示され、観客は都市の動きや変化を視覚的に感じることができます。この作品は、データがどのように私たちの日常生活に影響を与え、またどのようにアートとして再解釈されるかを探求しています。Naho Matsudaの作品は、デジタル時代における情報の流れとその意味を問いかけるものであり、観客にデータの美しさとその背後にあるストーリーを感じさせることを目的としています。観客は、日常の中に潜む詩的な要素を発見し、都市生活の複雑さを新たな視点で捉えることができます。

2020年

※コロナ禍によりイベントがキャンセルとなりました。

2021年

※コロナ禍によりイベントがフルオンラインで開催されました。

 

FRAMERATE: Pulse of the Earth by ScanLAB Projects(2022年)

 FRAMERATE: Pulse of the Earth by ScanLAB Projectsは、没入型アートインスタレーションで、地球の風景がどのように変化しているかを視覚的に体験できる作品です。この作品は、イギリスの田園風景や都市の景観をミリメートル単位で正確に3Dタイムラプススキャンし、それを大規模なスクリーンに映し出すことで、観客に地球規模の変化を感じさせます。
このインスタレーションでは、自然と人間の活動によって引き起こされる変化、例えば破壊、建設、成長、浸食などが、視覚的に表現されています。観客は、複数のスクリーンにまたがる3Dストーリーを通じて、時間の流れや季節の変化、地質学的な時間スケールを考えさせられます。
FRAMERATEは、単なるアート作品にとどまらず、科学的研究の成果をも含んでおり、データは実証的で計測可能な事実を提供しています。この作品は、観客に環境変化を新たな視点で観察し、考える機会を提供し、地球の未来について深く考える場を提供します。ScanLAB Projectsは、建築やクリエイティブ産業における大規模な3Dスキャン技術を探求するスタジオで、この作品を通じて、写真や映画製作の未来を示唆しています。

Mixanthropy by Meichun Cai and Yiou Wang(2023年)

 

Mixanthropy by Meichun Cai and Yiou Wangは、アートインスタレーションで、テクノロジーと神話を融合させた作品です。この作品は、動物と人間の形態を行き来する「ミクサントロープ」と呼ばれる存在を通じて、身体の変容を探求します。

動物と人間の境界を超えた形態変化をテーマにしています。神話的な存在が持つ流動性と変化の可能性を表現し、身体がどのように変容し得るかを探ります。技術としては、モーションキャプチャを用いて、アーティスト自身の動きをデジタル化し、3Dモデルに転送します。これにより、様々な環境に応じた皮膚の質感を持つハイブリッドな存在が、動物や人間の形態に変化します。16台のホログラフィックディスプレイが使用され、観客はこれらの変化を視覚的に体験できます。作品は、時間と共に変化する多様なアイデンティティを持つ存在を描き出し、観客に新しい視点を提供します。

Mixanthropyは、文化や生物学、テクノロジーにおける変容の概念を再考させる作品です。観客は、非人間的な要素を取り入れた新しい生命体の可能性を考えるきっかけを得られます

Quantum Jungle by Robin Baumgarten(2023年)

SXSW Art Program Installation - “Quantum Jungle” by Robin Baumgarten
Photo by Adam Kissick
SXSW Art Program Installation – “Quantum Jungle” by Robin Baumgarten
Photo by Adam Kissick

Quantum Jungle by Robin Baumgartenは、インタラクティブなアートインスタレーションで、量子物理学の概念を視覚的に表現しています。この作品は、観客が量子力学の複雑な概念を楽しく理解できるように設計されています。

壁一面に設置された数千のLEDと、触れることができる金属製のスプリングで構成されています。これらのスプリングは触感に反応し、観客が触れることでインスタレーション全体の光のパターンが変化します。シュレディンガー方程式を用いて量子粒子の動きをモデル化し、重ね合わせ、干渉、波動-粒子二重性、量子波動関数の崩壊といった量子力学の概念を視覚的に示します。観客は量子力学の基本的な原理を直感的に理解することができます。具体的には、観客はスプリングに触れることで、量子状態の「測定」をシミュレートし、波動関数が崩壊する様子を体験します。このインタラクションは、ゲームデザインとハードウェア設計の経験を持つアーティスト、Robin Baumgartenによって設計され、非常に高い反応速度と低遅延の入力を実現しています。

Quantum Jungleは、量子力学をより身近で理解しやすいものにすることを目指しています。科学的に正確な量子アルゴリズムを用いながら、遊び心あふれる体験を提供することで、子供から大人まで幅広い観客に量子物理学の魅力を伝えています。

Smoke and Mirrors by Beatie Wolfe(2024年) 

Smoke and Mirrors by Beatie Wolfeは、アートインスタレーションで、気候変動に関するデータを芸術を通じて伝える作品です。この作品は、特にメタンガスの上昇に焦点を当て、過去60年間の気候データを視覚的に表現しています。

Beatie Wolfeは、以前の作品「From Green to Red」で、CO2レベルの上昇を視覚化し、気候変動の影響を訴えましたが、Smoke and Mirrorsではさらに踏み込んで、メタンガスのデータを使って気候変動の現状を描き出しています。この作品は、視覚的に美しいだけでなく、環境問題に対する意識を高めることを目的としています。

展示は、観客に対して、データが持つ力を再認識させ、私たちの行動が地球に与える影響について考えさせるきっかけを提供します。アートと科学を融合させることで、複雑な気候データをより理解しやすくし、観客に深い印象を与えることを目指しています。Wolfeの作品は、気候変動に対する啓発活動の一環として、芸術がどのように貢献できるかを示しています

参照元:

 

 

私宮川は、普段Futuristとして活動しています。未来を考えるためには、まず問いを設定することが必要です。SXSWアートプログラムでは、アート作品を体験しながら、日常では得られない「問い」を得ることができます。私が実際にどのような「問い」を設定したのか、その一端を共有したいと思います。

2017年 – Infinity Room by Refik Anadol
問い
私たちが日常的に認識している現実とは何か?テクノロジーが創り出す仮想空間に没入することで、私たちは現実と仮想の境界線をどのように再定義できるのか?

2018年 – Conductors and Resistance by Ronen Sharabani
問い
エネルギーの流れとその抵抗が生み出す変化は、私たちの社会や個人の行動にどのように反映されているのか? インタラクティブな体験を通じて、エネルギーの不可視の動きに対する理解がどのように深まるのか?

2018年 – FEAST by Caitlin Pickall
問い
食事を通じたコミュニケーションはどのように文化や個人のアイデンティティを形成するのか? インタラクティブなアートが食文化の多様性とその背後にあるストーリーをどのように再発見させるのか?

2019年 – Weaving by Cocolab
問い
伝統的な文化と現代のデジタル技術が融合することで、どのような新しい形のアートが生まれるのか? 視覚と音のインタラクションを通じて、私たちはどのようにして文化の変遷と未来を体感できるのか?

2019年 – EVERY THING EVERY TIME by Naho Matsuda
問い
都市の日常から収集されるデータが、アートとして再解釈されるとき、私たちの生活や都市に対する認識はどのように変わるのか? 情報過多の時代において、データが詩的な表現を通じてどのように私たちの感性に影響を与えるのか?

2022年 – FRAMERATE: Pulse of the Earth by ScanLAB Project
問い
地球規模の変化を視覚化することで、私たちは環境問題をどのように理解し、行動に移すことができるのか? アートが科学的データを通じて、地球の未来についての意識をどのように喚起するのか?

2023年 – Mixanthropy by Meichun Cai and Yiou Wang
問い
身体やアイデンティティが流動的に変化する中で、人間と動物、そしてテクノロジーの境界はどこにあるのか? 変容する身体が示す新しい生命体の可能性について、私たちはどのように理解し、受け入れるべきなのか?

2023年 – Quantum Jungle by Robin Baumgarten
問い
量子物理学の複雑な概念が視覚的に表現されることで、科学とアートの境界はどのように曖昧になりうるのか? 直感的なインタラクションを通じて、科学の抽象的な理論がどのようにして一般の理解へと変容するのか?

2024年 – Smoke and Mirrors by Beatie Wolfe
問い
気候データを視覚化することで、私たちはどのようにして環境問題に対する意識を高め、行動を促進できるのか? アートが科学的事実を表現する力を持つとき、それはどのようにして社会的変革の一助となり得るのか?

 

アートは常に新しい視点を提供し、私たちに深く考えさせる力を持っています。SXSWのアートプログラムを通じて、皆さんもこれらの問いに向き合い、自分なりの答えを見つけてみてください。