NewSpaceとは?SXSW 2022〜2026で見る宇宙ビジネスの変化

FUTURIST’S VIEW|NEW SPACE

宇宙ビジネスを数年追っていると、「誰が宇宙へ行くか」より、「宇宙を使って地上で何をするか」という話が増えていることに気づきます。

私は2012年からSXSWを継続して見てきました。この記事では、SXSWで扱われてきた宇宙関連のセッションやスタートアップを振り返りながら、NewSpaceが「宇宙へ行く産業」から、さまざまな産業を支えるインフラへどう近づいているのかを見ていきます。

宮川麻衣子

宮川麻衣子
Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

宇宙ビジネスというと、ロケット、月面着陸、宇宙旅行などを思い浮かべる人が多いかもしれません。

もちろん、それらは今も重要です。

でもSXSWで数年分のプログラムを並べてみると、別の変化が見えてきます。

衛星データを農業や水資源管理に使う。衛星の中でデータを処理する。宇宙資産に保険をかける。月へ継続的に荷物を運ぶ。打ち上げ、月面、軌道上を一つのシステムとして運用する。

WHAT IS CHANGING?

つまり宇宙が、特別なプロジェクトの「目的地」ではなく、地上の産業が利用する場所やインフラの一部になり始めているのです。

2022|「Commercial Space Age Is Here」と言われ始めた

COMMERCIALIZATION

この変化を見るうえで、一つの分かりやすい起点が2022年です。

SXSWではこの年、文字通り “The Commercial Space Age Is Here” というセッションが行われました。

NASA、Intuitive Machines、Axiom Space、Houston Spaceportなどが登壇し、NASAと民間企業の連携によって、人間が持続的かつ大規模に宇宙へアクセスする時代をどう実現するかが議論されています。公式のセッション紹介では、将来的な巨大なSpace Economyを見据え、政府機関と民間企業が協力する新しい宇宙開発の時代として位置づけられていました。

NewSpaceという言葉自体は、それ以前から使われています。

政府主導だった宇宙開発へ民間企業やスタートアップが参入する。

ロケットの再利用などによってコストを下げる。

宇宙旅行や衛星ビジネスなど、新しい商業市場をつくる。

当初のNewSpaceを理解するには、こうした説明でも十分でした。

でもその後を見ていると、単に「民間企業が宇宙へ行くようになった」という説明だけでは足りなくなってきます。

2023|「宇宙へ行く」から、宇宙でコンピューティングする

COMPUTING

2023年のSXSWには、Reinventing Space with Edge Computing というセッションが登場しています。

このタイトルだけでも、宇宙ビジネスの変化がよく表れています。

ロケットを飛ばす。

衛星を軌道へ載せる。

という話から一歩進み、

THE QUESTION

宇宙空間に置かれたコンピューターで、何を処理するのか。

という段階へ進んでいる。

地球観測衛星などが取得するデータ量が増えれば、そのすべてを一度地上へ送ってから処理する必要があるのか、という問題が出てきます。

通信、データ処理、AI、衛星。

もともと別々に見えていた産業が、「宇宙上のコンピューティング」というテーマで重なり始めます。

同じ2023年には、宇宙旅行を「地球を見直すための体験」として扱うセッションもありました。宇宙から地球を見る経験が、地球環境や保全への意識をどう変えるかという議論です。

ここで宇宙は、「遠くへ行く場所」だけではなくなっています。

地球を別の視点から見るための場所であり、新しいデータ処理の場所でもある。

宇宙を利用する目的が増え始めています。

2024|宇宙は、科学だけの話でもなくなる

CULTURE & INFRASTRUCTURE

2024年のSXSW Opening Sessionに登場したのは、NASAと米国の詩人Ada Limónでした。

NASAのEuropa Clipperには、Limónの詩が刻まれて宇宙へ送られました。SXSWではNASAの惑星科学と詩を同じステージで扱い、「科学とアートがどう結びつくのか」がOpening Sessionとして議論されています。

宇宙開発の話なのに、ロケット性能や探査機の技術仕様だけを語っているわけではない。

文化や物語、人間が宇宙をどう理解するかまで含めている。

同じ2024年には、

How the Tech That Tracks Space Junk Will Save Life on Earth

というセッションもありました。

宇宙デブリを追跡する。

衛星や宇宙船が増えれば、それらが安全に存在できる環境を維持する必要がある。

ここで起きているのは、非常に地上の産業に似た変化です。

車が少ないうちは、道路交通システムはいらない。

飛行機が少ないうちは、巨大な航空管制システムはいらない。

しかし利用者が増えれば、

誰がどこにいるのか。

衝突しないか。

誰が管理するのか。

というインフラが必要になります。

宇宙が産業化するほど、「宇宙へ行く技術」より「宇宙を安全に使い続ける仕組み」が重要になる。

これはNewSpaceが一段成熟した兆候にも見えます。

2025|宇宙が、具体的なビジネスの部品になっていく

RECURRING ACCESS

2025年になると、この変化はさらに明確になります。

NASAとFirefly Aerospaceによるセッション A Fast and Furious Return to the Moon では、月面への rapid, recurring access、つまり「速く、繰り返しアクセスできる状態」がテーマになりました。

公式プログラムにも、民間企業がNASAと協力し、月面への継続的なアクセスを実現しようとしていることが明記されています。

ここで注目したいのは、「月へ行ける」ということではありません。

繰り返し行けることです。

一度成功する。

世界初を達成する。

ではなく、何度も使える。

輸送できる。

計画に組み込める。

産業にとってはこちらの方が重要です。

飛行機も、一度大西洋を横断できたから巨大産業になったわけではありません。

毎日繰り返し飛べるインフラになったから、その上に旅行、物流、ホテル、保険など多数の産業が生まれました。

月面へのアクセスでも、同じ変化が始まろうとしています。

2025|「宇宙企業」ではない事業が宇宙を使い始める

SOFTWARE & FINANCE

2025年に私が特に面白いと思ったのは、SXSW Pitchです。

Security, GovTech & Space部門のファイナリストを見ると、「ロケット会社」だけが並んでいるわけではありません。

たとえばLittle Place Labsは、衛星上のEdge ComputingとMachine Learningを使い、資産監視、災害検知、海上監視などの情報をより早く提供しようとしています。

Charterはさらに違います。

宇宙船製造を効率化するソフトウェアだけでなく、宇宙資産のデータを使って保険の引受を可能にする仕組みを開発していました。SXSWの説明でも、宇宙産業をfinancializeするインフラとして紹介されています。

ここまで来ると、宇宙ビジネスの意味がかなり変わります。

ロケット。

衛星。

宇宙船。

だけではありません。

ソフトウェア。AI。データ。保険。金融。製造。

宇宙が一つの産業カテゴリーなのではなく、他の産業が宇宙へ入り始めている。

この違いは大きいと思います。

2025|宇宙から地球の農業と水を見る

EARTH OBSERVATION

NASAのセッション NASA Uses Space Tech To Tackle Earth’s Food & Water Issues も、この変化をよく表しています。

テーマは宇宙探査ではありません。

食料と水です。

NASAはEarth Observationの衛星データ、コンピューターモデリング、AI / Machine Learningを使い、農業、生産、水資源管理など地上の課題へ応用していると説明しています。

つまりユーザー側から見れば、

「宇宙を利用したい」

という需要ではないかもしれません。

農作物の状況を知りたい。

水資源を管理したい。

災害を早く検知したい。

その問題を解決する最適なデータが、たまたま宇宙から来る。

この状態になると、「宇宙産業」という呼び方自体が少し怪しくなります。

インターネットを使っている企業を、今では「インターネット産業」とは呼びません。

GPSを使うタクシー会社も、地図アプリを使う飲食店も、「衛星企業」ではありません。

宇宙も、同じ方向へ進んでいるのかもしれません。

2026|Launch、Land、Orbitを一つの産業として扱う

SYSTEM

そして2026年。

SXSWにはFirefly AerospaceのCEO Jason KimとVP of EngineeringのBrigette Oakesが登壇し、

Launch, Land, Orbit: The Future of Space with Firefly

というFeatured Sessionが開催されました。

このタイトルは象徴的です。

Launch —— 打ち上げる。

Land —— 月面へ着陸する。

Orbit —— 軌道上で活動する。

これらを別々のプロジェクトではなく、一つにつながったシステムとして扱う。

Firefly自身も、ロケット、月面探査機、軌道上Vehicleをまたいで開発しています。Brigette Oakesの公式プロフィールでも、launch、lunar、orbital vehiclesを横断してエンジニアリングを統括していることが示されています。

2022年に「Commercial Space Age Is Here」と語られていたものが、数年後には、

THE QUESTION

宇宙へのアクセスをどう継続的なシステムとして運用するのか。

という問題になっている。

私はここに、NewSpaceが次の段階へ入ったことを感じます。

FUTURIST’S NOTE

「宇宙企業」という言葉がなくなるとき

未来の産業が成熟したかどうかを見る一つの方法は、

その技術を、わざわざ名前で呼ばなくなること

だと思っています。

昔は「インターネット企業」という言葉がありました。

今では、ほとんどの企業がインターネットを使っています。

「スマートフォン対応」も、かつてはサービスの特徴でした。

今では、対応していることを説明する必要すらありません。

宇宙も同じかもしれません。

「宇宙ビジネス市場が何兆円になるか」より私が興味を持つのは、

宇宙を使っているのに、その会社自身は自分を宇宙企業だと思っていない

という事業がどこまで増えるかです。

農業会社が衛星データを使う。

保険会社が宇宙資産を引き受ける。

物流会社が衛星通信を使う。

AIが軌道上でデータを処理する。

そのとき宇宙は、巨大な新市場というより、新しい「前提」になります。

宇宙産業が本当に成熟するのは、「宇宙」という言葉を使わない宇宙ビジネスが増えたときなのかもしれません。

4年間を並べると、「宇宙」の意味が変わっている

もちろん、SXSWの数本のセッションだけで宇宙産業全体を説明することはできません。

ただ、同じイベントを毎年追っていると、何が「話す価値のある未来」として扱われているかの変化を見ることができます。

年SXSWで見えた変化
2022民間企業とNASAがつくるCommercial Space Age
2023宇宙上でのComputingや新しい利用方法
2024Space Traffic、文化、社会との接続
2025継続的な月面アクセス、Edge Computing、保険、Earth Observation
2026Launch・Land・Orbitを一体化した運用

最初の問いは、

誰が宇宙へ行けるのか。

だった。

それが、

宇宙で何ができるのか。

へ変わり、さらに、

THE SHIFT

宇宙を前提に、どんな産業をつくれるのか。

へ移り始めています。

「宇宙へ行く会社」から「宇宙を使う会社」へ

NewSpaceという言葉は、政府中心だった宇宙開発へ民間企業が参入した変化を説明するには、とても便利でした。

でも今、その次の変化が始まっています。

「宇宙企業が増える」というだけではありません。

これまで地上にあった産業が、宇宙を使い始める。

AIと宇宙。

農業と宇宙。

金融と宇宙。

通信と宇宙。

物流と宇宙。

製造と宇宙。

SXSWで宇宙関連のプログラムを見ていて面白いのは、宇宙が他の領域から独立した専門領域ではなくなっていくことです。

これはSXSWそのものの特徴とも重なります。

AIだけを見る。

宇宙だけを見る。

Climateだけを見る。

のではなく、それらがどこで交わり始めているのかを見る。

未来の産業は、既存カテゴリーの中だけで生まれるとは限りません。

むしろ、それまで別だったカテゴリーの境界が曖昧になったところに、新しい事業が生まれます。

NewSpaceの次に起きていることも、そこにあるように思います。

宇宙が「普通」になった未来を想像する

宇宙ビジネスの未来というと、月面基地や火星移住のような大きなビジョンを想像しがちです。

もちろん、それも未来の一部です。

でも、もっと静かな未来もあります。

天気を見るように衛星データを見る。

クラウドを使うように軌道上のコンピューティングを使う。

航空貨物を手配するように月面輸送を手配する。

工場に保険をかけるように宇宙資産へ保険をかける。

その一つ一つが特別ではなくなったとき、

NEW SPACE AS INFRASTRUCTURE

宇宙は「行く場所」ではなく、社会を構成するインフラの一部になっている。

SXSWで数年間NewSpaceを見てきて、私が今気になっているのは、そんな未来です。

文:宮川麻衣子/SXSW Japan Director・Futurist
2012年よりSXSWを継続観測。SXSWの公式プログラムと現地での観測をもとに、2022〜2026年のNewSpaceの変化を時間軸で再構成しています。