【レポート】James Minor(SXSW Music のヘッド)が語る音楽業界における市場参入戦略の最前線

James Minor @TIMM

こんにちは、SXSW Japanの宮川です。未来を見通すFuturist(未来予報™︎の専門家)として、私は常に新しい技術やアイデアの可能性に目を向けています。SXSWについては13年続けて参加しており、独自のレポートを毎年書いています

先日行われたTIMMでのJames Minorのパネルセッションの模様をレポートします!

Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

宮川麻衣子

Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

宮川麻衣子

Touring the World: How to Plan, Promote, and Perform in Key Markets

2024年11月6日、TIMM(東京国際ミュージック・マーケット)内で開催されたパネルセッション「Touring the World: How to Plan, Promote, and Perform in Key Markets(世界でのツアーの計画、プロモーション、そしてパフォーマンス方法)」にSXSW Music FestivalのヘッドであるJames Minor(ジェームズ・マイナー)が登壇しました。

モデレーター兼通訳には、ジェームズの友人であり、将来宇宙輸送システム株式会社というスタートアップのCBOである、嶋田敬一郎さんにお願いいたしました。

音楽業界におけるグローバルな市場戦略をテーマに、特にアーティストがどのようにして異なる国での活動を成功させるかに焦点を当てた内容でした。登壇者には、ジェームズの他に、アーティストの米国進出における法的課題に取り組む移民弁護士のマシュー氏、アーティストのキャリア開発をサポートするエージェントのトム・ウィンディッシュ氏が集まり、それぞれの専門分野から実践的な意見が共有されました。

以下、このセッションの要点をまとめます。

データ活用によるツアー計画の重要性

最初に話題となったのは、SpotifyやInstagramなどのデータをどのように活用してファン層を把握し、ターゲット市場を絞り込むかという点です。トム氏は、ツアーを計画する際にアーティストが自分のファンがどこにいるのかを正確に理解することが不可欠であると強調しました。ファン層を知ることは、効率的なプロモーション活動やツアー先の選定に直結するため、データの取得と分析は無視できません。

ジェームズもこれに同意し、特にファンとの直接的なつながりを持つことの重要性を語りました。彼は、InstagramやSpotifyのアルゴリズムに依存せず、メールアドレスなどでファンと直接的なコミュニケーションを図ることが効果的であるとし、「ファンデータをもとにしたツアー計画は、多くのアーティストが考えている以上に大きな違いをもたらす」と述べました。

デジタル以外の要素:現地支援者と地域パートナーの重要性

デジタルデータの活用だけでなく、現地での協力者の存在が成功の鍵であることも議論されました。特に、アーティストが新しい市場で活動を広げる際には、現地のエージェントやプロモーターとの関係構築が不可欠です。トム氏は、「新しい市場でツアーを成功させるためには、現地にあなたを支援するチームがいることが大切」と述べ、アーティストのキャリア形成において地域パートナーシップの重要性を強調しました。

また、ジェームズは、地域での成功は一度の訪問だけで達成できるものではなく、何度も訪れることでファンベースを築く長期的な視野が必要だと語りました。アーティストが複数回にわたり同じ市場に訪問することで、信頼性が高まり、現地での認知が深まるのです。

米国市場の課題:ビザ取得と高額なコスト

米国市場への進出は多くのアーティストにとって目標である一方、ビザの取得や高額なコストが大きな障害となります。マシュー氏は、米国でのパフォーマンスには高額なビザ費用が発生することを説明し、この点を十分に理解し、計画に組み込むことが重要であると警告しました。米国は広大で競争が激しい市場であり、経済的リスクを負ってでも参入する価値があるのか慎重に判断する必要があります。

さらに、トム氏は、米国での活動を計画する際、アーティストは複数回にわたって訪問する計画を立てるべきだとし、一度の訪問だけでは持続的なファンベースの構築には至らないと述べました。継続的に訪問し、マーケットに根を張るためには、長期的な戦略とビザ取得のための経済的支援が不可欠です。

ショーケースフェスティバルを超えた代替戦略

ジェームズは、アーティストが知名度を高める手段としてショーケースフェスティバルの価値を認めつつも、単独での解決策とはならないと述べました。特にSXSWのようなイベントは、知名度を上げる絶好の場ですが、それ以上に、現地のアーティストや音楽業界関係者と関係を築くことが肝心です。

また、トム氏は、ショーケースフェスティバル以外にも効果的な手段として、現地のアーティストとのコラボレーションや、ソングライターのワークショップ、長期滞在型のレジデンシーなどを提案しました。これにより、現地での関係が深まり、より強固なファンベースを築くきっかけとなります。

長期計画の重要性と「魔法のような解決策」への警戒

セッションの最後に、パネリストたちは「長期的な視野の重要性」と「魔法のような解決策」に依存しない姿勢を強調しました。音楽業界では、よく「大手フェスに出演さえすれば成功する」といった一発逆転を期待する考えが見られますが、これは実際には非常にリスクが高く非現実的です。

ジェームズは「多くのアーティストが『どこかのフェスに出ればすべてがうまくいく』と考えているが、それは甘い考えだ」と述べ、現実的で持続可能な計画の必要性を強調しました。音楽市場での成功には忍耐と継続が不可欠であり、長期的にマーケットに関わり続けることが成功への近道だというメッセージが込められていました。

まとめ

今回のセッションは、データ活用によるファン層の理解から、現地での長期的な活動計画、さらにはショーケースフェスティバルを超えた代替的なアプローチまで、音楽業界での市場開拓に向けた多角的な視点が議論されました。米国市場の魅力と障壁を理解し、現地での支援者を得て、複数回にわたる訪問を重ねることで持続的なファンベースを築くことができるでしょう。

音楽業界において、単なる「魔法の解決策」ではなく、実現可能な長期計画に基づいた市場参入戦略がいかに重要であるかを改めて感じました。私たちが目指すべきは、粘り強く、計画的に、そしてファンとの信頼関係を築きながら新たな市場を開拓していくことです。このセッションを通して得られた知見が、次世代のアーティストたちがグローバルな舞台で成功を収めるための指針となることを願っています。


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