SXSW LONDON|CITY & CULTURE
SXSW Londonを見ていると、Austinとは違う「ロンドンという都市そのもの」が、イベントの性格に強く表れていることに気づきます。
テクノロジー、音楽、映画、アートが交差すること自体はSXSWに共通しています。しかしロンドンでは、その交差が「都市が抱える課題を、文化やクリエイティビティを使ってどう解くか」という方向へ伸びているのが特徴的です。

たとえば、小さなライブハウスを守るために大規模公演の収益を還流させる仕組み。住宅開発と既存の音楽文化を共存させる「Agent of Change」。男性のメンタルヘルスという問題に、人が日常的に通う床屋からアプローチする活動。
LONDON AS A CREATIVE SYSTEM
ロンドンでは、文化やクリエイティビティが「表現」のためだけでなく、都市の仕組みそのものを更新する方法として使われています。
だからSXSW Londonは、単に「Austinの欧州版」と考えるより、SXSWという領域横断型のイベントがロンドンという都市に置かれたとき、何が強く現れるのかを見る方が面白いと思います。
2026年2月、SXSW Japanでは、ロンドン在住経験があり現地のカルチャーに精通する磯崎智恵美さん(BASSDRUM)をゲストに迎え、SXSW Londonについてオンラインで話を伺いました。
この記事ではその対話をもとに、SXSW Londonの概要だけでなく、Grassroots Music Venues、Night Economy、メンタルヘルスなどの事例から、「なぜロンドンでSXSWなのか」を読み解きます。
SXSW Londonとは?Austinとの違い
SXSW Londonは、SXSWのヨーロッパ版として2025年6月に初開催されました。
舞台は、East LondonのShoreditch周辺。大きな一つのコンベンションセンターへ集約するのではなく、劇場、ライブハウス、ギャラリー、クラブ、イベントスペースなどを歩きながら巡る構造です。
初開催の2025年には、25,327人が参加。34会場で、500以上のConference Session、110以上のScreen作品、500以上のMusic Artistが展開されました。
2026年6月1〜6日には、第2回となるSXSW Londonが開催されました。

AustinとLondonは、どちらもConference、Music、Screen / Filmを横断するSXSWですが、街との関係はかなり違います。
| 観点 | SXSW Austin | SXSW London |
|---|---|---|
| 都市 | Downtown Austin全体へ広がる大規模なFestival | Shoreditchを中心に、徒歩圏のVenueを巡る |
| 背景 | Technology、Startup、Film、Musicが長年蓄積してきたSXSW本体 | 欧州のCreative Industries、文化、多様なコミュニティとの接続 |
| プログラム | Innovation、Film & TV、Musicを大規模に横断 | Conference、Music、Screenを軸に横断 |
| 都市との接続 | Austinの街そのものがFestivalの舞台になる | East Londonの文化、Night Economy、Creative Communityと強く結びつく |
どちらが優れているという話ではありません。
同じSXSWというフォーマットでも、置かれる都市が変われば、そこで交差する産業や問題意識も変わる。その違いを見ること自体が、SXSW Londonの面白さです。
「Beautiful Collisions」が、ロンドンではどう現れるのか
2025年のSXSW Londonが掲げたテーマの一つが、“Beautiful Collisions”でした。
TechnologyとArt。BusinessとCulture。Musicと社会課題。異なる人や領域が同じ場所に置かれることで、予定されていなかった組み合わせが生まれる。
これはAustinにも通じるSXSWの基本的な性格ですが、London版では、East Londonという場所の歴史や文化的多様性が加わります。
2026年のConferenceでも、New Human Experiences & AI、Frontier Technologies、Unreal Realities、Society Rewired、London 2050など、技術単体ではなく、それが人間や都市、社会とどう接続するかを扱うテーマが並びました。
SXSW LONDON 2026
Conference
AI、Frontier Technologies、Healthtech、Society、Future of Citiesなど、Technologyと社会・Creative Industriesの交差を扱う。
Music
世界各地の新しいArtistやSceneに加え、DiasporaやUndergroundから生まれるCultureにも焦点を置く。
Screen
映画・TV・映像作品の上映と、制作者・Industryによる対話を展開。
私たちがオンライン説明会を開催した2026年2月時点では、Ben Cohen、Victor Riparbelli、Sir Martin Sorrell、Harry Stebbings、NASA JPLのThomas Cwikなど、Technology、Business、CultureをまたぐSpeakerが発表されていました。

ロンドンでは、文化を「守る仕組み」までデザインする
オンライン説明会で特に印象に残ったのが、ゲストの磯崎智恵美さん(BASSDRUM)が紹介してくれた、ロンドンの都市文化です。
磯崎さんはロンドンに7年間在住し、現地のデザインや音楽Sceneを見てきました。
話を聞いていて共通していたのは、「課題があるなら、既存の文化や場所を壊して置き換えるのではなく、共存できる仕組みをつくる」という発想でした。
1|Grassroots Music Venues:成功した側から、文化の土台へ戻す

英国では、小規模なMusic Venueをどう維持するかが長く議論されてきました。
Music Venue Trustなどが推進しているのが、ArenaやStadiumクラスの公演チケットから一定額をGrassroots Musicへ還流させる仕組みです。
現在は、チケット1枚につき£1をLIVE Trustへ拠出するモデルが広がり、ColdplayやHarry Stylesをはじめ大規模公演を行うArtistも参加しています。
重要なのは、単なる寄付ではなく、大きな成功を生み出したMusic Industryが、そのTalentを育てる小さなVenueへ資金を循環させる仕組みとして設計されていることです。
文化を「消費するもの」として扱うだけでなく、次の文化が生まれる土壌をどう維持するかまで考える。
2|Night EconomyとAgent of Change:新しく来た側が、共存のコストを負う


LondonはNight TubeやNight Czarなどを通じて、夜の文化と経済を都市政策の対象として扱ってきました。
その中でも象徴的なのが、都市計画に組み込まれているAgent of Changeという考え方です。
たとえば、すでにMusic Venueが存在する場所の近くへ新しい住宅を建てるのであれば、新しく入ってくるDevelopment側がNoise対策を考える。
City of LondonのPlanning Policyでも、Noiseなど新たに生じる影響を緩和する責任を「変化を起こす側」に置く原則として説明されています。
「後から来たものによって、先に存在していた文化が消える」ことを当然にしない。
開発か文化か、どちらかを選ぶのではなく、両方が残れるルールを設計する。この考え方も、ロンドンを理解する一つの入口です。
3|メンタルヘルス × 床屋:新しい施設をつくらず、既にある関係を使う

磯崎さんがもう一つ紹介したのが、理髪師とMental Healthを結びつけるLions Barber Collectiveの活動です。
男性にとって、定期的に足を運び、同じ人と話しながら長い時間を過ごす床屋は、意外に貴重なコミュニケーションの場です。
そこで理髪師がMental Healthについて学び、いつもと違う様子に気づいたり、会話の入口をつくったりする。
新しい相談施設をつくるのではなく、すでに社会の中にある関係性を、別の役割として読み替えるわけです。
SXSW JAPAN’S NOTE
この3つは、Music、都市政策、Mental Healthとまったく違う話に見えます。
でも共通しているのは、問題が起きたときに「新しいTechnologyを導入する」ことから始めていないことです。
今ある文化、場所、関係、制度を別の角度から見直し、組み合わせを変える。
ロンドンのCreative Cultureの面白さは、新しい表現を生み出すことだけでなく、こうした都市の問題解決にもCreativeな発想が入り込んでいることだと思います。
SXSW Londonは、イベントの外にあるロンドンまで含めて面白い
こうした話を聞いていると、SXSW Londonの面白さはConference会場の中だけでは完結しません。
Shoreditchを歩く。小さなMusic Venueを見る。Design Studioを訪ねる。Museumのあり方を見る。夜のEntertainmentを体験する。
そこまで含めて初めて、「なぜこの都市でSXSWを開催するのか」が見えてきます。
2026年、SXSW Japanではこの考え方から、SXSW Londonへの参加に加えて、Heatherwick Studio、Pentagram、V&A East Storehouse、ABBA Voyageなどを巡るOfficial Tourを企画しました。

2026 TOUR ARCHIVE
Heatherwick Studio
建築やProductを「完成品」だけでなく、Makingと試行錯誤のProcessから見る。
Pentagram
世界的Design Studioの働き方と、新しいOffice Environmentを見る。
V&A East Storehouse
Museumの収蔵庫そのものをPublicへ開く、新しい文化施設のあり方を見る。
ABBA Voyage
Technologyだけでなく、Music、身体、Performance、Productionを統合したImmersive Entertainmentを体験する。
このTourはすでに終了していますが、何を見ようとしていたかを並べると、SXSW Londonの読み方が分かります。
最新Technologyの展示だけではなく、文化をつくる場所、都市を維持する仕組み、人間の体験を変えるCreative Practiceそのものを見る。
Austinのコピーではなく、「Londonだから成立するSXSW」へ
SXSW LondonをAustinと比べると、規模や歴史では当然Austinの方が大きいです。
でも、London版にAustinと同じものを求める必要はありません。
むしろ興味深いのは、SXSWというフォーマットが違う都市へ移植されたとき、その都市が持っている問題意識や文化がどう浮かび上がるかです。
Londonでは、TechnologyやBusinessだけでなく、Music Venueをどう残すのか、夜の都市をどう設計するのか、Creative Communityをどう維持するのか、といった話がSXSWと自然につながります。
未来のTechnologyを見るだけではなく、未来の都市で「どう共存するか」を見る。
そこに、Austinとはまた違うSXSW Londonの役割が見えてくるように思います。
2026年オンライン説明会のアーカイブ
この記事は、2026年2月に開催したSXSW Japanのオンライン説明会「SXSW London」に関するトークをもとに、内容を再編集しています。
ゲストは、ロンドン在住経験を持つBASSDRUMの磯崎智恵美さん。SXSW Londonの概要だけでなく、ロンドンのMusic Scene、Night Economy、都市文化について詳しく伺いました。
SOURCES & REFERENCES
SXSW London — 2026 Programme / Second Year Announcement
Music Venue Trust — Grassroots Levy
文:宮川麻衣子/SXSW Japan Director・Futurist
本記事は2026年2月に開催したオンライン説明会の内容をもとに、その後のSXSW London 2026開催を踏まえて再編集しています。
ROAD TO SXSW
SXSW Austin / London / Sydneyの最新情報や、日本から参加するための情報をニュースレターで配信しています。



