EDUCATION & AI|SXSW EDU 2026
AIを教育にどう取り入れるか。その議論と同時に考えたいのが、人と一緒に学ぶ時間に、何を残したいのかです。
相手の立場を想像する。自分とは異なる意見や感情に触れる。仲間と相談しながら、答えが一つに決まらない状況で判断する。
こうした経験を、これからの授業や学習サービスの中にどう組み込めるでしょうか。
2026年3月、米国オースティンで開催された教育のカンファレンス&フェスティバル「SXSW EDU」で、その手がかりになる二つのプログラムを体験しました。
一つは、学校生活と若者の成長を描いた新作ミュージカル『Schooled』。もう一つは、テーブルトークRPG「Dungeons & Dragons(D&D)」を使った教育の実演です。
方法は異なりますが、どちらにもあったのは、一人では完結しない学びでした。
ミュージカルを通して、生徒の葛藤を観客がともに受け止める
『Schooled』は、学校生活と若者たちの成長を描く、開発中のミュージカルです。
SXSW EDU 2026では、第1幕のステージド・リーディングと、その後の制作者との対話が行われました。ステージド・リーディングとは、俳優が台本などを手にしながら演じ、観客の反応も受けながら作品を発展させていく段階の上演形式です。
SXSW EDU FIELD NOTE
私が引き込まれたのは、生徒たちの葛藤の描かれ方でした。
登場人物の感情が舞台上に表れると、観客は笑ったり、声を出して共感を示したりしていました。私自身も、その空間に深く没入しました。
作品そのものに心が動くだけではありません。同じ場所にいる人たちが、どこで笑い、どこで息をのみ、どこで反応するのかも伝わってきます。
教育について考えるとき、制度、授業方法、学習成果などに目が向きがちです。
しかし学校は、生徒が期待や不安を抱え、周囲との関係の中で自分自身を形づくっていく場所でもあります。
『Schooled』は、その経験を説明するのではなく、登場人物の側から一度経験してみる入口になっていました。
ここで起きていたことを、すぐに「共感力が向上する」といった教育効果へ置き換える必要はないと思います。まず、生徒の葛藤を観客がともに受け止め、それぞれの経験と重ねられる時間があった。そのこと自体に、教育を考えるうえでの意味を感じました。
完成した教材ではなく、学びの場そのものを一緒につくる
『Schooled』は、完成した作品を披露して終わるプログラムでもありませんでした。
上演後には、作者Peter NilssonとディレクターDeonté Warrenによるtalk backが行われました。
制作者は、学校での経験を単純な類型に押し込めずに描こうとしたことを語っていました。観客からは、自分たちのコミュニティに作品を届ける方法や、より低い年齢層に向けた版の可能性についても質問が出ていました。
作品を見るだけだった観客が、上演後には「この作品を、次に誰へ届けるのか」を考える側へ回っていた。
制作者も、その反応を今後の作品開発に取り込んでいました。
ここから見えてきたのは、教育に関わる人が、完成した教材やメソッドを受け取るだけではなく、学びのための表現を育てる過程そのものに参加する姿です。まだ形の定まっていない試みに触れ、自分の現場との接点を考える。SXSW EDUには、そうした関わり方もあります。
D&Dで「自分なら」ではなく「この人物なら」と考える
もう一つ印象に残ったのが、Dungeons & Dragons(D&D)を使った実演でした。
正式なプログラム名は「The Kids Table Live-Play: SEL, D&D, & Kids!」。子どもと大人が実際にD&Dをプレイし、その後、ゲームの中でどのようにempathy、communication、confidenceなどが育まれる可能性があるのかを解説するプログラムです。
D&Dは、参加者が登場人物の役を担い、進行役が描く状況の中で行動を選びながら、共同で物語をつくっていくテーブルトークRPGです。
ONE QUESTION
「その登場人物なら、どうするだろう?」
「自分ならどうしたいか」だけではありません。
自分が演じている人物には、どのような性格や背景があり、この状況をどう受け止めるだろうか。
いったん自分から離れて、別の立場から状況を見る。そのひと呼吸が、ゲームの進行そのものに組み込まれていました。
答えを知ることと、仲間と先へ進むことは違う
実演には、謎を読み解き、参加者同士で相談する場面もありました。
進行役は、ある参加者が得た情報をその人だけのものにせず、「それをみんなにも伝えてみよう」と共有を促していました。
誰が考えるのか。
誰が話すのか。
持っている情報を誰に渡すのか。
意見が異なったとき、どう決めるのか。
ここで設計されていたのは、物語の筋だけではなく、参加者同士の関わり方でもありました。
謎の答えを知ることと、その知識を仲間へ伝え、一緒に次へ進むことは同じではありません。
AI時代、先生の役割は「答えを教える人」だけではない
このD&Dの実演を見ながら、教育における先生の役割について考えました。
進行役は、答えを一方的に教えていたわけではありません。
- 状況を提示する
- 発言を受け止める
- 必要なところで考えるきっかけを渡す
- 情報を持つ人には共有を促す
- 参加者同士が話せるように場を整える
こうした小さな介入によって、ゲームが学びの場になっていました。
どこで問いを渡すか。どこで待つか。誰に言葉を渡すか。
同じゲームや教材を用意しても、こうした働きかけによって、そこで起きる経験は変わります。
OECDも、生成AIは授業準備や個別化、フィードバックなどを支援できる一方で、人間の判断・関係性・責任を置き換えるべきではなく、AIによって生まれた時間を、教師が学習者との関係やより豊かなフィードバックに使える可能性を指摘しています。
OECD「Reimagining Teaching in an Accelerating World」を読む →
教師の役割がなくなるというより、「情報を渡す人」以外の役割が、より見えやすくなる。
AI時代に「人と学ぶ経験」をどう位置づけるか
『Schooled』では、観客が登場人物の経験に触れ、周囲の人たちの反応も含めて物語を受け止めていました。
D&Dでは、参加者自身が役を引き受け、仲間と相談しながら行動していました。
Schooled
他者の経験に触れる。
D&D
他者の立場で動いてみる。
方法は違いますが、どちらにも、自分一人では完結しない経験があります。
これらを「AIには絶対にできないこと」と断定する必要はないと思います。AIを使ったロールプレイや共同学習にも、これから多くの可能性が出てくるでしょう。
AIにできるか/できないかを線引きすることではなく、人間同士で何を経験する時間をつくりたいのかを先に決める。
相手の反応が、自分の予想どおりにならないこと。
説明して初めて、自分の考えが十分に伝わっていなかったと気づくこと。
同じ物語を見ても、人によって心が動く場所が違うこと。
自分一人では思いつかなかった選択肢を、誰かから受け取ること。
AI時代の教育では、使う技術を設計すると同時に、人が一緒に過ごす時間の中身も設計する必要があります。
SXSW EDUでは「教育の未来」を説明するだけでなく、試している
SXSW EDUには、講演やパネルディスカッションだけではありません。
ワークショップ、映画上映、パフォーマンス、展示、Pitchなど、さまざまな形式があります。
WHY SXSW EDU?
教育の未来について「こうなる」と語るだけではなく、教育のアイデアをその場で試している。
作品を上演して、観客の反応を受け取る。ゲームを実際にプレイして、参加者同士のやり取りを見る。
そこには、レポートや研究論文を読むだけでは分からない情報があります。
- どの場面で人が引き込まれたのか
- どの問いかけで参加者が考え始めたのか
- どこで会話が生まれたのか
- どの瞬間に、その場の空気が変わったのか
学校の授業を改善したい人、新しい教育サービスを考える人、文化や芸術を学びにつなげたい人にとって、こうした場は、自分たちの方法を考え直す材料になります。
演劇やD&Dをそのまま教室へ導入することだけが、持ち帰れるものではありません。
「なぜ、この場では人が考え始めたのか」
その視点を持ち帰れば、自分たちの授業やサービスにも応用を検討できます。
EXPLORE SXSW EDU
教育の未来を考えるために、人が実際に学び合う場を見たい。まだ発展途上の試みに触れ、そのつくり手と話したい。そうした関心から、SXSW EDUを訪れるという選択肢があります。
参加を検討する方は、SXSW EDU公式サイトで最新のテーマやプログラムをご確認ください。
文:宮川麻衣子/SXSW Japan・VISIONGRAPH(Futurist)
SXSW EDU 2026での現地体験と記録に基づく。
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