SXSW Sydneyとは何だったのか|2023–2025、AustinからAPACへ広がった3年間

SXSW Sydney - Photo by Maiko Miyagawa

FUTURIST’S VIEW|SXSW SYDNEY 2023–2025

2023年、Austinで生まれたSXSWが初めて北米の外へ出ました。その最初の都市が、オーストラリアのSydneyでした。

私は初開催の2023年に現地へ行きました。AustinのSXSWには2012年から参加していますが、同じ名前のイベントが別の街へ移ると、何が残り、何が変わるのか。その違いを実際に歩いて見られたのが、Sydneyでした。

宮川麻衣子

宮川麻衣子
Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

WHAT I SAW

「AustinをSydneyへ持ってきた」というより、SXSWという仕組みを別の街へ置いたら、違うSXSWが立ち上がった。

SXSW Sydneyは2023年にAPAC向けのSXSWとして始まり、2024年には無料公共プログラムとAI領域を拡張。2025年にはさらに大きな都市型プログラムへ発展しました。

そして3年間の開催を経て、2026年以降は開催されないことが決まりました。

この記事は、2024年に公開したSXSW Sydneyの紹介記事を、2026年9月時点から振り返る形で全面改訂したものです。2023年に私が現地で見た風景を起点に、Sydney版が3年間でどう変化したのかを記録します。

2023年、SXSWが初めてAustinの外へ出た

SXSW Sydneyの初開催は、2023年10月15日から22日。Austinで1987年に始まったSXSWにとって、北米以外で初めて開催されるイベントでした。

Conferenceだけでなく、Tech & Innovation、Games、Music、Screen、Cultureが同じ期間に動き、Expo、ネットワーキング、パーティーまでが一つの街に重なります。

SXSW Sydney 2023のTumbalong Park
SXSW Sydney 2023、Tumbalong Park。Photo by Maiko Miyagawa

会場は一つのコンベンションセンターに閉じていたわけではありません。Darling HarbourからChippendaleにかけて複数の会場が点在し、その間にある街も含めてSXSWを歩くことになります。

ただ、Austinを知っている私には、最初からかなり違って見えました。

AustinではDowntownのバー、ライブハウス、ホテル、劇場、レストラン、路上までが次々とSXSWの場所になっていきます。SydneyではDarling Harbourの大きな公共空間や施設、Chinatown、Chippendaleなど、もともと性格の違う場所をSXSWのプログラムがつないでいました。

同じSXSWでも、開催する都市が変われば、イベントと街の境界のつくられ方も変わる。

Sydneyでは、アジア太平洋がぐっと近くなった

Sydneyで開催されたことで大きく変わったものの一つが、参加者の地理でした。

97,462

2023年 ユニーク来場者

287,014

2023年 延べ来場カウント

41

参加者の代表国数

日本からSydneyまでは直行便でおよそ9〜10時間。時差も季節によって1〜2時間程度です。Austinへ行くときとは、移動そのものの感覚がかなり違います。

SXSW Sydney会場に隣接するChinatown
SXSW Sydney会場に隣接するChinatown。Photo by Maiko Miyagawa

もう一つ印象に残ったのは、会場のすぐ隣にChinatownがあったことです。街そのものがすでにアジアとの接点を持っています。

FROM AUSTIN TO SYDNEY

Austinでも世界中から参加者が集まります。でもSydneyでは、「世界から人が集まる」という感覚に加えて、SXSWそのものがアジア太平洋の中へ移動してきたように感じました。

それでも、「SXSWらしさ」は残っていた

Sydney版でも、SXSWは一つの産業に絞られませんでした。

Tech & Innovationの隣にGamesがあり、Musicがあり、Screenがある。テクノロジーについて話していた人が、夜には音楽を見に行く。映画の人とスタートアップの人が同じ街を歩く。

SXSW Sydney 2023の会場

2023年にはChance The Rapper、Nicole Kidman、Charlie Brooker、Naomi Wattsらが登場し、Future Today InstituteのAmy Webbも基調対談に参加しました。

未来技術、映画、ゲーム、音楽、企業、社会を別々のイベントに分けず、同じ会期の中で隣り合わせにする。この分野の混ざり方は、AustinからSydneyへ移っても残っていました。

3年間で、Sydney版はどう変わったか

初開催から終了までの3年間を並べると、Sydney版が毎年少しずつ形を変えていたことが分かります。

2023|LAUNCH

APACにSXSWをつくる

Conference、Expo、Music、Screen、GamesなどをSydneyに集め、北米外で初めてSXSWを開催。

2024|OPEN

街から入れる入口を広げる

Tumbalong Parkの無料企画を7日間へ拡張。National AI Monthも始まり、公共プログラムが大きく広がった。

2025|UNLOCKED

無料アクセスを一つのプログラムに

無料プログラム「Unlocked」を展開。専門プログラムと市民が参加できる文化プログラムが同じ都市動線に重なった。

2024年、Tumbalong Parkが街への入口になった

2年目の2024年には、1,600を超えるセッション/イベントが開催され、56か国から92,000人を超えるユニーク来場者が参加しました。延べ訪問数は30万を超えています。

数字以上に変化が見えたのが、Tumbalong Parkでした。

この場所では7日間で163の無料イベントが開催され、主催者発表では190,000人を超える参加がありました。

2023年に私が歩いたTumbalong Parkが、翌年にはバッジを持つ参加者だけの場所ではなく、街にいる人がそのまま入ってこられるSXSWの大きな入口になっていったことになります。

2023年には「SydneyにSXSWがやってきた」ように見えたものが、2024年にはSydneyの日常へ開いていった。

AIも、専門領域の外へ

2024年にはNational AI Monthも始まりました。AIを一つのテクノロジー領域として閉じるのではなく、産業、仕事、都市、市民生活まで横断するテーマとして扱うプログラムです。

Canva共同創業者Melanie PerkinsとMary Meekerの対談など、イベント後にも公開されるセッションもありました。会期中にその場にいた人だけでなく、そこで交わされた議論が映像として外へ広がっていく形も強くなっていきました。

2025年、「Unlocked」という名前がついた

3年目の2025年は、10月13日から19日に開催されました。

Conference、Expo、Tech & Innovation、Games、Music、Screenを横断して約1,600の企画が組まれ、AI、未来の仕事、量子技術、サイバーセキュリティ、サステナビリティ、クリエイティブ産業などが扱われました。

主要登壇者には、Signal社長のMeredith Whittaker、映画監督Paul Feig、Mo Gawdatらが名を連ねています。

そして前年から広がっていた無料プログラムには、SXSW Sydney Unlockedという名前がつきました。

Tumbalong Parkと周辺では85時間を超える無料のトーク、音楽、テクノロジー、ゲーム、ファミリー向け企画を実施。Games ShowcaseやInnovation Expoの無料開放、First Nationsの映像・音楽を扱う「Blak To The Future」なども組み込まれました。

バッジを買って深く参加する専門プログラムと、街に来た人がそのまま触れられる無料プログラム。その二つが同じSydneyの中に重なったのが、最終年の姿でした。

規模を拡大したまま、3年間で終了した

2025年の開催後、SXSW Sydneyは2026年、2027年には開催されないことが決まりました。結果として、Sydney版のSXSWは2023年から2025年までの3年間で終了しました。

終了時に運営側が示した数字では、2023〜2025年の累計経済効果は2億7,600万豪ドルの見込み、地域外からの来場者は63,000人超。2025年の延べ来場カウントは345,000超で、前年から15%増加したとされています。

ABOUT THE NUMBERS

この記事の来場者数・経済効果は、SXSW Sydneyおよび関係機関が公表した数値です。「ユニーク来場者」と「延べ来場カウント」は異なるため、区別して記載しています。経済効果についても、運営・関係者側が発表した推計値として扱っています。

最後の年まで来場規模は伸びていました。それでも開催は続きませんでした。

終了にあたっては、NSW州政府、運営側、SXSWのグローバル側で継続可能な形が検討されましたが、市場環境などを踏まえて継続しない判断になったと説明されています。

大きな国際イベントが別の都市で続いていくには、来場者数だけでは見えない条件もあります。運営事業として成立するか、開催都市との関係をどうつくるか、公共資金をどう位置づけるか。Sydney版の終了によって、その側面も見えることになりました。

AustinからSydneyへ移ったとき、何が残ったのか

2023年にSydneyへ行ったとき、私はAustinと同じものを探しながら歩いていた気がします。

けれど、街も違えば、集まっている人も違う。SydneyにはSydneyの公共空間があり、Chinatownがあり、アジア太平洋との距離がありました。

一方で、Techの隣にMusicがあり、Screenがあり、Gamesがある。違う領域から来た人が、同じ街を歩いている。その光景には、Austinで長く見てきたSXSWと共通するものがありました。

MY PERSPECTIVE

SXSW Sydneyを見て分かったのは、「SXSWらしさ」はAustinの街並みそのものではなかった、ということです。

異なる領域を同じ場所に置くこと。目的の違う人たちが同じ街を歩くこと。予定していなかったものが視界に入ること。

それを別の都市へ持っていくと、その土地の文化や地理、人の集まり方と混ざり、Austinとは違うSXSWが立ち上がる。Sydneyの3年間は、その変化を毎年少しずつ見ることができた時間でした。

そして、そこで生まれた形が永続するとは限らない。始まりから終了までを見ることになったからこそ、SXSW Sydneyは、イベントの海外展開という以上に「ある場所で生まれた文化を、別の場所へ移すと何が起きるのか」を考えるケースとして記憶に残っています。

SOURCES

  • SXSW|Announcing SXSW Sydney, October 15–22, 2023
  • Destination NSW|SXSW Sydney Reveals 2023 Stats and Key Dates for 2024
  • SXSW Sydney|SXSW Sydney Announces Dates for 2025
  • Destination NSW|SXSW Sydney 2025 program announcements
  • SXSW Sydney|SXSW Sydney Unlocked