SXSWから広がったサービスとは?Twitter、Airbnbから見る未来の兆し

FUTURIST’S VIEW|SXSW HISTORY

SXSWで長く観測していると、未来は「完成した新技術」としてではなく、まだ少し奇妙な新しい行動として先に現れることがあります。

私は2012年からSXSWを継続して見てきました。この記事では、Twitter、Airbnb、Foursquare、Spotify、Meerkatなど、SXSWと関わりの深かったサービスを振り返りながら、企業の成功物語ではなく、そこに現れていた「次の普通」を見ていきます。

宮川麻衣子

宮川麻衣子
Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

SXSWは「次のTwitterを探す場所」と紹介されることがあります。しかし、長く見ていると、それだけでは少し違います。重要なのは、どの会社が次に成功するかを当てることではなく、いまはまだ珍しい行動や感覚のうち、何が数年後の日常になろうとしているのかを見ることです。

FUTURIST’S NOTE

未来の兆しは、最初から「未来らしい顔」をしているとは限りません。むしろ、「なぜそんなことをするの?」「それは本当に必要?」と感じるような行動の中に、新しい普通が潜んでいることがあります。

2007|Twitter —— 「今ここ」がネットにつながる

REAL-TIME

SXSWの公式史には、2007年のInteractiveを象徴する出来事の一つとしてTwitterが記録されています。参加者の間で、会場で起きていることや「今どこにいるか」をリアルタイムで共有する使い方が広がり、SXSWはTwitterが広く知られる転機の一つになりました。

後から見ると重要だったのは、140文字という仕様そのものより、個人の「今」が常時ネットワークへ流れ込む感覚です。ニュース、イベント実況、災害情報、社会運動まで、リアルタイム性はその後の情報環境の前提になっていきました。

FUTURIST’S NOTE

新しかったのはTwitterというサービス名だけではなく、「今この瞬間の自分」がネットワークにつながり続けることだったのだと思います。後から当たり前になった行動の方を見ると、当時の変化の大きさが見えてきます。

2008|Airbnb —— 他人の家に泊まるという違和感

ACCESS

Airbnbの公式史によると、当時のAirbed & Breakfastは2008年3月のSXSW期間中に正式ローンチしました。ところが、そのときに入った予約はわずか2件でした。

いまでは個人の家や部屋に泊まることは旅行の一般的な選択肢ですが、当時は「知らない人の家に泊まる」という行為自体に強い違和感がありました。重要なのは、Airbnbという企業だけでなく、所有されている空間へ必要なときだけアクセスするという新しい行動が成立し始めたことです。

FUTURIST’S NOTE

後から成功企業だけを見ると、最初から大きな未来が見えていたように感じます。でもSXSWでのAirbnbの最初の予約は2件でした。未来の兆しと市場規模は、最初はほとんど一致しません。

2009|Foursquare —— 「場所」がデジタルになる

LOCATION

SXSWの公式史では、2009年にFoursquare、Gowalla、Uberがローンチしたことが記録されています。Foursquareで特に象徴的だったのは、「ここにいる」とチェックインする行為でした。

位置情報は単なる緯度経度ではなく、人と店、人と友人、人と街をつなぐ情報になりました。現在では地図、レビュー、店舗検索、広告、配車など多くのサービスが位置情報を前提にしていますが、当時は現実の場所にデジタルの情報層が重なること自体が新しかったのです。

2010|Spotify —— 音楽を「持つ」から「アクセスする」へ

STREAMING

Spotifyは、共同創業者Daniel Ekが2010年のSXSWで初めてKeynoteを行い、2011年の米国正式ローンチより前にサービスを参加者へ紹介したと振り返っています。

ここで変わろうとしていたのは、音楽配信の方式だけではありません。CDや楽曲ファイルを「持つ」のではなく、巨大な音楽ライブラリへ必要なときにアクセスする。ストリーミングはその後、映像やゲーム、ソフトウェアなどにも広がり、所有よりアクセスを選ぶ感覚を日常化していきました。

WHAT WAS CHANGING?

Twitter —— 「今」を共有する。

Airbnb —— 所有されている空間へアクセスする。

Foursquare —— 現実の場所にデジタルの情報を重ねる。

Spotify —— コンテンツを持たず、必要なときに呼び出す。

2015|Meerkat —— 消えたサービスが残した未来

LIVE

2015年のSXSWで大きな話題になったのが、スマートフォンからライブ配信できるMeerkatでした。翌年のSXSWプログラムでも「Meerkat blew up at SXSW 2015」と振り返られています。

Meerkat自体はその後サービスを終了しました。しかし、「誰でもその場から生中継する」という行動は消えませんでした。ライブ配信はさまざまなSNSや動画サービスへ組み込まれ、今では特別な行為ではなくなっています。

FUTURIST’S NOTE

SXSWで話題になった会社が、そのまま勝者になるとは限りません。Meerkatを見るとよくわかります。会社は消えても、その会社が先に見せた行動は社会に残る。未来を見るとき、私は企業名よりこちらを重視しています。

「次の成功企業」を当てることが、未来を見ることではない

こうして並べると、SXSWは有名なサービスを次々と生んだ場所のように見えます。ただし、実際の関係はそれぞれ違います。SXSWで正式ローンチしたものもあれば、広く知られるきっかけを得たもの、米国展開前にサービスを披露したものもあります。

だから「SXSWが企業を生んだ」と考えるより、SXSWという場所が、その時代に立ち上がろうとしていた新しい行動を増幅して見せたと捉える方が近いと思います。

2000年代後半から2010年代に見えていたのは、リアルタイム、位置情報、共有、ストリーミング、ライブ配信といった変化でした。別々のサービスの話に見えますが、まとめて見ると、人間と情報、人間と場所、人間と所有の関係が組み替わっていたことがわかります。

2026|では、いま「普通」になろうとしているものは何か

いまSXSWで追いかけている変化の中心にはAIがあります。ただし、注目しているのはモデルの性能競争だけではありません。

AIが文章を書く。仕事を手伝う。その先で、AIエージェントが複数の仕事を引き受け、判断の一部を委任される。さらにロボティクスやXRと結びつき、デジタル空間の外へ作用し始める。そこで変わるのは、「AIに何ができるか」以上に、人間が何を自分で行う存在なのかという前提です。

FUTURIST’S NOTE

2000年代後半の変化を「便利なスマホアプリが増えた」とだけ見ていたら、その後の社会変化は読み切れませんでした。AIも同じだと思っています。見るべきなのは、「このAIは何ができるか」ではなく、それによって何が当たり前ではなくなろうとしているのか。 私がSXSWを見続けている理由も、そこにあります。

未来は、日常になる前に少しだけ奇妙に見える

Twitterのリアルタイム投稿も、Airbnbで他人の家に泊まることも、Foursquareで居場所を公開することも、ライブ配信も、最初から当たり前だったわけではありません。

未来の兆しを探すときに面白いのは、「最先端技術」というラベルの付いたものだけを見ることではありません。いま目の前で起きているのに、まだ私たちの常識とは少し噛み合わないものを見ること。

SXSWには、そうした「まだ普通ではない現実」が毎年大量に持ち込まれます。そこから数年後の日常を考えることが、私にとってSXSWを観測する面白さです。

文:宮川麻衣子/SXSW Japan Director・Futurist
2024年公開・2026年9月更新。SXSWとの関係については、SXSWおよび各社の公式情報をもとに再確認し、長期観測の視点から再構成しています。