日本のアーティストが海外進出するには?SXSW Musicに学ぶ、海外ツアーの始め方

James Minor @TIMM

PERSPECTIVE|MAIKO MIYAGAWA

宮川麻衣子 Maiko Miyagawa

宮川 麻衣子|Maiko Miyagawa

Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

海外進出というと、まず「どの国へ行くか」「どのフェスに出るか」を考えがちです。でも、本当に最初に考えるべきことは、そこではないのかもしれません。

2024年11月、東京国際ミュージック・マーケット(TIMM)で、SXSW Music Festivalを率いていたJames Minorが登壇したパネルセッション「Touring the World: How to Plan, Promote, and Perform in Key Markets」を聞きました。

テーマは、アーティストがどう海外市場へ入っていくのか。そこで繰り返し語られていたのは、大きなフェスへの出演や一度の海外ツアーではなく、ファンのデータを知ること、現地の人と関係をつくること、そして同じ市場へ何度も戻っていくことでした。

SXSWへの出演を考えている日本のアーティストにとっても、とても重要な話だと思います。SXSWに「出る」ことを考える前に、海外進出そのものをどう考えるか。セッションで聞いた話から整理してみます。

ABOUT THIS ARTICLE

この記事は、2024年11月6日に東京国際ミュージック・マーケット(TIMM)で開催されたパネルセッション「Touring the World: How to Plan, Promote, and Perform in Key Markets」をもとに、宮川麻衣子が執筆した記事を再編集しています。

元記事では、SXSW MusicのJames Minorをはじめとする登壇者の発言を中心に、海外ツアーに必要なファンデータ、現地パートナー、米国ビザ、ショーケースフェスティバルの役割を紹介しました。今回はその一次情報を残しながら、「日本のアーティストが海外進出するには?」という視点から構成を見直し、SXSW Music 2027の情報を加えています。

海外進出は「海外フェスに出ること」ではない

このセッションにはJamesのほか、アーティストの米国進出における法的課題を扱う移民弁護士のMatthew氏、アーティストのキャリア開発を支援するエージェントのTom Windish氏が登壇しました。

話を聞いていて印象的だったのは、誰も「まず有名な海外フェスへ出よう」という話をしていなかったことです。

どこにファンがいるのか。その市場に誰がいるのか。何度そこへ戻れるのか。海外進出は、ひとつの大きな機会をつかむことより、ひとつの市場との関係をどうつくっていくか、という話として語られていました。

01|まず、自分のファンがどこにいるかを見る

最初に話題になったのは、SpotifyやInstagramなどのデータを使って、自分のファンがどこにいるのかを把握することでした。

Tom氏は、ツアーを計画するなら、まずアーティスト自身がファンの所在地を理解することが重要だと話していました。海外だからといって、いきなり「アメリカ」「ヨーロッパ」と大きな市場を選ぶのではなく、すでに自分たちの音楽を聴いている人がどこにいるのかを見る。

Jamesはさらに、InstagramやSpotifyなどのプラットフォームだけに依存せず、メールアドレスなどを通じてファンと直接つながることの重要性にも触れていました。

POINT 01

「行きたい国」から考えるのではなく、「すでに自分の音楽を聴いている人がいる場所」から市場を見る。

02|数字だけでは、海外市場には入れない

ただし、ストリーミングデータを見れば海外進出できるわけではありません。

セッションでは、新しい市場で活動するときほど、現地のエージェントやプロモーターなど、自分たちを支えてくれる人との関係が重要だという話が出ました。

さらに、現地アーティストとのコラボレーション、ソングライターのワークショップ、長期滞在型のレジデンシーなども、新しい市場へ入る方法として挙げられていました。

つまり、海外進出は「日本から作品を輸出する」という一方向の動きだけではない。現地のシーンの中に知っている人が増え、一緒に何かをする相手が生まれていくことも、市場へ入っていくプロセスなのだと思います。

03|一度行くだけでは、市場はつくれない

Jamesが繰り返し話していたのが、同じ市場を何度も訪れることの重要性でした。

海外で一度ライブをして帰ってくる。それだけでは、持続的なファンベースをつくるのは難しい。複数回その市場を訪れ、少しずつ認知や信頼をつくっていく必要があるという話です。

これは海外進出を考えるとき、意外と抜け落ちやすい視点です。「海外へ行く」というイベントを計画するのではなく、数年かけてその場所とどう関わり続けるかまで考える。すると、最初の一回に求めるものも変わってきます。

04|アメリカ進出には、ビザとコストという現実もある

もちろん、どの市場へ行くかは可能性だけでは決められません。特にアメリカでは、ビザや渡航費、滞在費などのコストも大きな問題になります。

移民弁護士のMatthew氏からは、米国でパフォーマンスするためのビザ取得にかかる費用や準備について説明がありました。市場が大きいからという理由だけでアメリカを選ぶのではなく、そのコストを負ってでも今その市場へ入る意味があるのかを考える必要があります。

※米国での就労・出演に必要なビザや条件はケースによって異なります。実際の渡航・出演時には、最新の公的情報および専門家への確認が必要です。

05|「SXSWに出れば成功する」わけではない

SXSW Japanとして、この話は特に書いておきたいと思います。

Jamesは、SXSWのようなショーケースフェスティバルにはアーティストの知名度を高めたり、業界関係者と出会ったりする価値がある一方、それ自体が海外進出の「魔法のような解決策」になるわけではない、と話していました。

FROM TIMM 2024

「どこかのフェスに出れば、すべてがうまくいく」と考えるのではなく、長期的にそのマーケットと関わり続けること。

— James Minorの発言趣旨/TIMM 2024でのパネルセッションより

SXSWに出演すること自体をゴールにしてしまうと、せっかく現地へ行っても、その一週間で終わってしまいます。

誰に会いたいのか。その後どこへツアーするのか。いつ同じ市場へ戻るのか。SXSWをその長い流れの中のひとつの接点として置いた方が、現地でやるべきことも見えてきます。

06|では、SXSW Musicは何のためにあるのか?

SXSW Musicは、世界中のアーティストと音楽業界関係者がオースティンに集まるショーケースフェスティバルです。2027年は3月15日〜21日の7日間にわたって開催されます。

Showcaseだけでなく、Music Conferenceや業界関係者との交流機会も同じ期間に集まります。つまり、ステージで演奏する場所であると同時に、次の活動につながる人や情報に接触する場所でもあります。

SXSWのShowcasing Artist選考では、音楽性だけではなく、アーティストが今どんな活動をしているのかも見られます。ストリーミング、ライブ経験、リリースやツアーの計画なども含めて、そのアーティストがこれからどこへ向かおうとしているのかが選考材料になります。

SXSWへの応募は、「この一回で何とかする」ためというより、自分たちがすでに進めている活動を、別の市場へ接続する機会として考える方が近いのだと思います。

07|SXSW Music 2027に出演するには

SXSW Music Festivalの公式Showcaseに出演するには、Showcasing Artist Applicationへの応募と選考が必要です。国籍や音楽ジャンルを問わず、世界中のアーティストが応募できます。

SXSW MUSIC 2027|SHOWCASING ARTIST

開催|2027年3月15日〜21日

応募対象|世界中のアーティスト/全音楽ジャンル

応募締切|2026年11月20日

応募|SXSW公式Showcasing Artist Applicationから

選出されたShowcasing Artistには、公式SXSW Showcaseでの出演機会が提供されます。招待されたアーティストには出演メンバーとマネージャー向けのArtist Registration Packageが用意されるため、出演のために別途SXSWのCredentialを購入する必要はありません。

一方で、SXSWを海外進出に使う方法はShowcaseへの出演だけではありません。Conferenceや現地でのネットワーキングなど、音楽業界と接点を持つ機会もあります。「Showcaseに選ばれること」と「SXSWを海外進出に使うこと」は、必ずしも同じではありません。

海外進出とは、市場との関係をつくり始めること

海外進出というと、どうしても「どのフェスに出るか」「どの国へ行くか」という場所の話になりがちです。

でも、このセッションを聞いて改めて感じたのは、海外進出とは場所を移すことではなく、自分の音楽が届く市場との関係をつくり始めることなのだ、ということでした。

そこに誰が聴いてくれているのかを知る。現地で一緒に動ける人に会う。一度だけではなく、また戻ってくる。その繰り返しの途中に、SXSWのようなショーケースフェスティバルがあります。

「SXSWに出るにはどうすればいいか?」の少し手前で、「SXSWの先に、どんな市場との関係をつくりたいのか?」まで考えてみる。それだけでも、応募の意味はかなり変わると思います。

NEXT STEP

SXSW Music 2027への応募を検討している方へ

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文:宮川麻衣子 / Director of SXSW Japan / Futurist
元記事:TIMM 2024「Touring the World: How to Plan, Promote, and Perform in Key Markets」レポート / 2024年11月14日公開
2026年9月 再編集