PERSPECTIVE|MAIKO MIYAGAWA

宮川 麻衣子|Maiko Miyagawa
Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker
SXSWに長く通っていると、イベントそのものと同じくらい、そのイベントと街との関係が気になってきます。
SXSWとオースティンは切り離して考えることができません。街のバーやライブハウス、ホテル、レストラン、道路までが会場になり、そこへ世界中から人がやってくる。一方で、世界から来た人たちが持ち込む文化や価値観も、少しずつ街の側へ残っていきます。
2024年11月、名古屋のSTATION Aiオープニングイベントで、「地域のカルチャーを変革するグローバルカンファレンスの価値」というパネルに登壇しました。Tech GALA、Slush、IVS、そしてSXSW。それぞれ違う土地から生まれたイベントを並べてみると、グローバルなカンファレンスと地域の関係が見えてきました。
ABOUT THIS ARTICLE
この記事は、2024年11月1〜2日に名古屋・鶴舞で開催されたSTATION Aiオープニングイベントで、宮川麻衣子が登壇したパネルセッション「地域のカルチャーを変革するグローバルカンファレンスの価値」をもとに執筆した記事を再編集しています。
元記事では、Tech GALA、Slush、IVS、SXSWに関わる登壇者との議論を通じて、地域発のグローバルイベントについて紹介しました。今回はその一次情報を残しながら、「グローバルカンファレンスは地域に何を残すのか」という視点から構成を見直し、その後実際に開催されたTech GALAの情報も加えています。

SXSWは、なぜオースティンで育ったのか
SXSWは1987年、テキサス州オースティンで音楽イベントとして始まりました。当初から巨大な国際イベントだったわけではありません。地元の音楽シーンやライブハウス、メディア、人のつながりの中から生まれ、長い時間をかけて現在の姿へ成長してきました。
今では世界中から人が訪れますが、SXSWを別の都市へそのまま移したら同じものになるかというと、私はそうは思いません。
ライブハウスが集まる街のサイズ、歩いて移動できる距離感、地元の音楽文化、大学、テクノロジー企業、飲食店、そしてオースティンに暮らす人たち。SXSWは街を会場として使っているというより、オースティンという土地にあるものと混ざりながら形を変えてきたイベントです。
01|地域資産は、産業や技術だけではない
このパネルで、Tech GALAのプロデューサーである奥田浩美さんが話していたのが、「地域資産」という考え方でした。
愛知・名古屋には、モビリティやマテリアル、ライフサイエンスなど、すでに世界へつながる産業があります。でも奥田さんが地域資産として捉えていたのは、それだけではありませんでした。
FROM STATION Ai 2024
名古屋には「目に見えない埋蔵金」のような地域資産が眠っている。産業や技術だけでなく、地域に根付く文化やコミュニティも含め、それを発掘して世界へつなげていく。
— 奥田浩美さんの発言趣旨/STATION Aiオープニングイベントでのパネルセッションより
この「まだ価値として数えられていないものまで地域資産として見る」という考え方は、SXSWとオースティンの関係を考えるときにも、とても近いものを感じます。
02|世界を呼ぶ前に、地域の側に理由がある
「グローバルイベントを地域で開催する」と聞くと、海外から著名なスピーカーやスタートアップを呼び、世界的なイベントをつくることを想像しがちです。
でも、この日の議論から見えてきたのは、むしろ逆でした。
世界から人を呼ぶ理由は、その土地の側にある。
オースティンにはオースティンの音楽文化があり、名古屋には名古屋の産業や技術、文化がある。そこに世界から異なる人や考え方が入ってくることで、もともと地域にあったものの意味が変わって見えてきます。

大きなイベントのフォーマットを別の都市へコピーするのではなく、その場所にしかないものと、外から来たものをぶつける。その混ざり方に、そのイベントの個性が生まれるのだと思います。
03|Slushは、若者たちの危機感から始まった
このセッションで私が特に刺激を受けたのは、Antti Sonninenさんが話してくれたフィンランドのSlushの話でした。
Anttiさんの話では、その背景には若い世代の強い危機感がありました。「このままではいけない。自分たちで未来をつくらなければならない」。その当事者意識から若者たちが動き、やがて国全体からも支援されるイベントへ育っていったといいます。
世界的なイベントになった後のSlushだけを見ると、その規模やブランドに目がいきます。でも、始まりにあったのは「世界的なカンファレンスをつくろう」という企画そのものより、自分たちの置かれている状況を何とかしたいという人たちの動きでした。
04|カンファレンスが地域に残すもの
IVSについて今井遵さんが話していたのも、地域社会との協力でした。イベントだけが独立して存在するのではなく、開催される地域とスタートアップが互いに影響しながら成長していく。
そう考えると、カンファレンスの成果は、来場者数や商談件数だけでは測れないのかもしれません。
WHAT REMAINS AFTER THE EVENT?
新しく知り合った人。
その後も続くコミュニティ。
それまで接点のなかった産業同士の関係。
そして、自分たちの街には何があるのかという見方そのもの。
数日間のイベントが終わった後にもそうしたものが残っていくなら、カンファレンスは一時的な集客イベントではなく、地域に新しい関係をつくる装置にもなります。
05|あの日語られていたTech GALAは、その後どうなったか
このパネルが開催された2024年11月、Tech GALAはまだ翌年に初開催を控えたイベントでした。
その後、2025年2月4〜6日に第1回Tech GALAが実際に開催されました。会場はSTATION Aiだけに閉じず、名古屋の栄・鶴舞エリアへ展開。公式発表では、5,000人以上が参加し、20以上の国・地域から参加者が集まり、140社以上の出展、400人以上の登壇者が参加しました。

興味深いのは、STATION Aiという施設の中だけで完結させず、街の複数会場へイベントを広げたことです。
2024年の壇上で奥田さんが話していた「地域資産を発掘し、世界へつなげる」という構想が、少なくともイベントの形として、実際の名古屋の街へ展開されていったことになります。
「頭のヘルメットを外す」ということ
このパネルの最後に、私は「頭のヘルメットを外す」という話をしました。
SXSWに初めて参加したとき、私が強く感じたのは、自分の中にあった「常識」が思っていた以上に狭かったということでした。
違う産業の人、違う文化を持つ人、違う未来を想像している人と同じ場所にいると、それまで「普通」だと思っていたものが、急にひとつの選択肢に見えてくることがあります。
だからグローバルカンファレンスが地域にもたらすものは、海外の情報や人脈だけではないのだと思います。
外から来た「違い」と出会うことで、自分たちの街や産業、文化を、それまでとは違う角度から見られるようになる。
SXSWへ行くと、オースティンという街を見ることになります。でも同時に、日本へ帰ってきたとき、それまで見慣れていた自分の街の見え方も少し変わっています。
もしかすると、グローバルなイベントが地域に残す一番大きなものは、その場所に暮らしている人たちが、自分たちの場所を別の目で見直す機会なのかもしれません。
NEXT STEP
なぜ、今わざわざオースティンまで行くのか。
AIで世界中の情報を得られる時代に、SXSWの現地へ行く意味を考えました。
文:宮川麻衣子 / Director of SXSW Japan / Futurist
元記事:STATION Aiオープニングイベント「地域のカルチャーを変革するグローバルカンファレンスの価値」登壇レポート / 2024年11月14日公開
2026年9月 再編集



