核融合エネルギーはどのくらい先なのか? 太陽と同じ仕組みを地上で再現する技術

Fusion Energy

SXSW TECH FRONTIER #01|次に仕事で聞く技術

太陽がエネルギーを生み出す仕組みを、地上でも利用できたら。長年研究されてきた核融合エネルギーは、近年、民間企業による開発も活発になっています。発電だけでなく、工場の熱源や産業用の検査など、関連技術の使い道も広がっています。

「SXSW TECH FRONTIER」は、SXSWに登場した技術や、これから注目したい研究開発を取り上げ、その仕組みと現在地を紹介するシリーズです。研究室での実験から、試作、実証、実際の製品やサービスまで。何ができるようになり、何がまだ実現していないのかを、具体的な事例とともに追っていきます。

TECH GUIDE

核融合エネルギーとは?

太陽は、内部で軽い原子核どうしが結びつく「核融合」という反応によって、大きなエネルギーを生み出しています。

この反応を地上で起こし、電気をつくるために利用しようとしているのが、核融合発電の研究です。

Fusion Energy

核融合エネルギー

軽い原子核どうしが結びつくときに放出されるエネルギーです。

現在の原子力発電で使われている「核分裂」とは異なる反応です。核融合発電では、非常に高い温度などの条件をつくり、反応を安定して起こす必要があります。

核融合の研究は何十年も続いています。最近になって突然生まれた技術ではありません。

今、改めて注目したいのは、研究施設での成果に加え、民間企業が発電所の開発や、核融合に関連する技術の事業化を進めていることです。

なぜ、まだ核融合発電は実現していない?

核融合反応を起こすこと自体は、すでに実験で実現しています。

米国の国立点火施設(NIF)は2025年4月、標的に与えたレーザーエネルギーの約4.1倍にあたる核融合エネルギーを得たと報告しました。

ただし、これは発電所全体で使った電力より、多くの電気を生み出したという意味ではありません。

核融合を使って電気を供給するには、反応を安定して続け、発生したエネルギーを取り出し、設備を長期間運転する必要があります。

「実験でエネルギーが得られた」と「発電所として電気を供給できる」の間には、まだ大きな距離があります。

技術は今、どこまで進んでいる?

核融合に関連する取り組みは、すべて同じ段階にあるわけではありません。

米国のSHINE Technologiesは、中性子という粒子を利用して、航空機部品などの内部を調べる検査サービスを提供しています。

部品を壊さずに内部を確認する技術で、すでに産業用途で使われています。ただし、これは核融合による商業発電ではありません。

日本のClean Planetは、金属と水素を使って熱を取り出す独自の技術を開発しています。工場で使うボイラーなどへの応用を目指し、「QHe IKAROS」という試作熱モジュールを公開しています。

同社が示している24kWは目標出力であり、達成済みの連続出力ではありません。また、提案されている反応の仕組みは、一般的な高温プラズマ方式の核融合とは異なり、独立した検証が必要です。

つまり、核融合に関連する技術の一部はすでに事業化されていますが、核融合による商業発電はまだ実現していません。

SXSW VIEW

SXSWでは、核融合の実現時期がどう語られてきた?

SXSWでは、核融合エネルギーをめぐる議論が2024年と2026年に行われています。

SXSW 2024 SESSION

Fusion Energy: A Shortcut to Solving Our Climate Emergency

テーマ:fusion energy / climate / industrial heat

2024年のセッションには、日本のClean Planetの吉野英樹氏が登壇しました。

Clean Planetが目指しているのは、工場などで使われる熱を、新しいエネルギー技術で供給することです。ボイラーメーカーの三浦工業との連携も紹介されました。

発電所だけでなく、工場の熱源という具体的な用途から、エネルギー技術の実用化を考える取り組みです。

SXSW 2026 SESSION

The Great Fusion Debate: How Far Away Are We Really?

テーマ:fusion energy / commercialization / technology

2026年には、「核融合は実際、あとどれくらい先なのか?」というセッションが開催されました。

登壇者には、SHINE Technologiesの創業者Greg Piefer氏や、核融合分野の専門家Melanie Windridge氏らが名を連ねました。

SHINEは核融合発電を長期的な目標としながら、中性子による産業検査や医療関連の事業を進めています。

2026年には医療用の放射性同位体に関わる事業拡大や、製造施設への投資計画も発表しました。ただし、施設の計画と完成、事業の拡大と核融合発電の実現は区別する必要があります。

2024年と2026年のセッションを並べると、核融合をめぐる議論には、発電の実現時期に加えて、その技術をどのような用途で使えるのかという視点があることが分かります。

宮川麻衣子 Maiko Miyagawa

宮川麻衣子

Futurist / SXSW Japan 代表

2012年よりSXSWに継続参加

Futurist Perspective

SXSWでは、エネルギーに関するセッションも数多く開催されています。

近年は、化石燃料への依存を減らしながら、再生可能エネルギーをはじめとするさまざまなエネルギー源を、どう組み合わせていくかという現実的な議論も増えています。

核融合エネルギーはSF作品にもよく登場しますが、その技術を実際に使えるものにするために、研究者や企業が真剣に議論を重ねています。

SFの中で描かれてきたエネルギー技術が、SXSWでは具体的な開発や実用化の課題として語られているのが印象的でした。

SXSW TECH TIMELINE

核融合エネルギーは、ここまで進んでいる

2024年3月

SXSW 2024でClean Planetが産業用熱源への応用構想を紹介。

2025年4月

米国の国立点火施設(NIF)が、標的に与えたレーザーエネルギーの約4.1倍にあたる核融合エネルギーを得たと報告。

2026年3月

SXSW 2026で「The Great Fusion Debate: How Far Away Are We Really?」を開催。SHINE Technologiesの創業者らが登壇。

2026年

SHINEが医療関連事業の拡大と製造施設への投資計画を発表。

2026年現在

核融合に関連する中性子技術は産業検査などで利用されている。一方、核融合による商業発電はまだ実現していない。