SXSW Musicで、日本のアーティストに何が起きた?|3つのショーケースを振り返る

SXSW JAPAN CASE STUDY|MUSIC 2025

2025年のSXSW Musicには、日本から21組のアーティストが出演しました。その周りでは、ライブサーキットをAustinへ持ち込む動き、複数社で東京の音楽を見せる試み、オーディションから初海外ライブへ送り出す仕組みが、それぞれ違う形で動いていました。

ABOUT THIS CASE

この記事は、2025年4月に開催したSXSW 2025報告会「Road to Austin」のMusicパネルをもとに再編集しています。

登壇したのは、LD&K / Tokyo Callingの菅原隆文さん、HIP LAND MUSIC / Inspired by Tokyoの山崎和人さん、TuneCore Japanの野田威一郎さん。モデレーターはSXSW Japanの宮川麻衣子です。

同じSXSW Musicに日本のアーティストを送り出していても、3者がつくっていた入口はかなり違っていました。

SXSW 2025 Musicパネル

SXSW 2025報告会「Road to Austin」。日本発の音楽ショーケースを手がけた3者によるパネル。

日本のアーティストがSXSWへ出演する、と聞くと、一つの大きなステージを想像するかもしれません。

実際のSXSW Musicは、AustinのライブハウスやクラブにいくつものShowcaseが同時に立ち上がります。

昼に別の会場で演奏したアーティストが、夜には違うShowcaseへ出演していることもあります。

音楽関係者も観客も街を移動しながら、知らなかったアーティストに出会います。

2025年、日本からの音楽をその環境へ届けていたのが、今回話を聞いた3つの取り組みでした。

Tokyo Calling|同じアーティストがAustinへ戻ってくる

Tokyo Callingは、日本各地のライブハウスを舞台に開催されるライブサーキットです。

SXSWでも、日本のライブカルチャーをAustinへ持ち込む形でShowcaseを続けてきました。

2025年に出演したのは、打首獄門同好会、眉村ちあき、東京初期衝動、Enfants。

その中には、前年に続いてSXSWへ戻ってきたアーティストもいました。

菅原さんが話していたのは、SXSWではその「戻ってくること」が意味を持つという話でした。

「SXSWって、“1回出て終わり”じゃないんです。出続けることで、会場や業界関係者に認識されて、世界が動き出す」

— 菅原隆文さん / Tokyo Calling

初めて見る名前と、「去年もここで見た」名前では、受け取られ方も少し変わります。

眉村ちあき、東京初期衝動は2024年から続けて出演し、2025年にはアンオフィシャルを含め複数のステージへブッキングされました。

一度の出演ですべてが決まるというより、翌年また会う。

別の会場でもう一度見る。

その積み重ねの中で、名前とライブが少しずつAustinの人たちの記憶に残っていく。

Tokyo Callingの話から見えてきたのは、そんな時間の使い方でした。

TOKYO CALLING|COME BACK

一度ライブをする。
翌年またAustinへ戻ってくる。
その間にも、少しずつ知っている人が増えていく。

Inspired by Tokyo|一社では見せきれない東京を、みんなで持っていく

Inspired by Tokyoは、HIP LAND MUSICを中心に、Spincoaster、オーチャード、TuneCore Japanが参加した共同企画です。

ここで中心に置かれていたのは、特定の一社や一ジャンルよりも、「今の東京の音楽カルチャー」をどう見せるかということでした。

「日本の音楽ってジャンルも音も本当に多様。1社じゃ伝えきれないから、みんなで組んでやる意味がある」

— 山崎和人さん / Inspired by Tokyo

一つのレーベルのShowcaseなら、その会社の所属アーティストを見せることができます。

複数の会社やチームが一緒になると、もう少し広い景色を見せられます。

音の違うアーティストが並び、「東京」という言葉で一つの夜にまとめられる。

海外の観客からすると、そこで初めて「今のTokyo Musicにはこんな幅があるのか」と見えることもあります。

この年はCEIPAの支援やトヨタグループのプロジェクトとの連携もあり、運営やPRも複数のパートナーによって支えられました。

パネルでは延べ来場者が1,000人規模になったことも紹介されています。

個々のアーティストを海外へ送り出すことと、「Tokyo」という音楽シーンそのものを見せること。

Inspired by Tokyoでは、その二つが同時に動いていました。

INSPIRED BY TOKYO|SHOW A SCENE

一組のアーティストだけでなく、
「今、この街にはこんな音楽がある」と見せる。

TuneCore Japan|「海外でライブをしてみたい」の入口をつくる

TuneCore Japanは、SXSWと連携したオーディションを運営しました。

野田さんによると、この年は応募数も前年から大きく増え、「SXSWへ出演する」ということがアーティストにとって以前より具体的な目標になっている感覚があったそうです。

応募者の中には、SXSWへの出演を以前から夢見ていた人もいれば、Austinが初めての海外ライブになった人もいました。

海外展開という言葉は大きく聞こえます。

実際には、最初の海外ライブへ応募することから始まるアーティストもいます。

TuneCore Japanの取り組みは、その最初の入口を広げていました。

「SXSWは、単に音楽を届ける場ではなく、“アーティストが成長する場所”。現地の反応、トラブル対応、国境を越えた交流——すべてが糧になります」

— 野田威一郎さん / TuneCore Japan

ステージに立つこと以外にも、現地ではいろいろなことが起きます。

観客の反応が、日本でのライブとは違う。

予定通りに進まないことがある。

別の国のアーティストと知り合う。

スタッフや音楽関係者から、その場で言葉をもらう。

そうしたことまで含めて、最初の海外ライブの経験になっていきます。

TUNECORE JAPAN|THE FIRST STEP ABROAD

「いつか海外へ」だったものが、
オーディションへの応募によって一つの予定になる。

3つを並べると、同じ「海外出演」でも時間の流れが違う

Tokyo Calling、Inspired by Tokyo、TuneCore Japan。

3つとも日本の音楽をSXSWへ運んでいます。

でも、アーティストとSXSWの関係をどこから作っているかは違います。

THREE DIFFERENT TIMELINES

Tokyo Calling
一度出演したアーティストが翌年も戻り、複数年かけてAustinとの接点を増やしていく。

Inspired by Tokyo
複数のプレイヤーが集まり、個々のアーティストと同時に「東京の音楽シーン」を一つのまとまりとして見せる。

TuneCore Japan
オーディションを通して、まだ海外ライブの経験がないアーティストにもAustinへ向かう入口をつくる。

海外展開というと、一つの大きな成功へ向かう一本道のように見えることがあります。

この3つの話から見えるのは、もっと違う時間の流れです。

初めて行く人がいる。

翌年また戻ってくる人がいる。

個人ではなく、街の音楽シーンとして見せようとする人たちがいる。

同じSXSWでも、それぞれ別の途中にいます。

ライブのあとに「次」が始まった人もいた

パネルの中では、「SXSWへの出演はゴールではなく起点」という言葉が何度か出てきました。

複数年出演したアーティストに海外ツアーや欧米Festivalから声がかかったケースや、ライブ後に現地のマネージャーやBooking Agentから名刺交換を求められた話も紹介されています。

もちろん、出演すれば毎回その先につながるわけではありません。

ただ、ライブを見てもらったその瞬間に、それまで会ったことのなかった人との会話が始まることがあります。

その場で次のライブが決まることもあれば、翌年もう一度Austinへ戻ったときに再会することもある。

パネルで語られていた「起点」という言葉は、そうした時間まで含んでいました。

AFTER THE SHOW

ライブが終わったあとに、
初めて始まる関係もある。

2025年のMusicパネルで残ったのは、3つの違う風景でした

Tokyo Callingでは、前年にも見たアーティストがまたAustinへ戻ってくる。

Inspired by Tokyoでは、いくつもの会社とアーティストが一緒になって、東京の音楽を一つの夜に並べる。

TuneCore Japanでは、初めて海外でライブをする人がAustinのステージに立つ。

どれも「日本のアーティストがSXSWへ出演する」という同じ言葉で説明できます。

でも、その前後にある時間はまったく同じではありません。

誰かにとっては初めての海外で、誰かにとっては再び戻ってきた場所で、誰かにとっては東京というシーンそのものを紹介する場所になっていました。

その違いまで見ていくと、SXSW Musicと日本の音楽との関係も、一度の出演という点より、少し長い線として見えてきます。

SXSW JAPAN NOTE

初めてAustinへ行く人も、
またAustinへ戻ってくる人もいる。
その積み重ねの中で、日本の音楽とSXSWの関係が続いています。