PERSPECTIVE|MAIKO MIYAGAWA

宮川 麻衣子|Maiko Miyagawa
Director of SXSW Japan / Futurist
SXSWのプログラムを見ていて、以前から少し不思議に思っていたものがあります。Podcastです。
Podcastなら、家で聴けます。移動中でも聴けるし、世界中に配信できます。
それなのにSXSWにはPodcast Stageがあり、何百人もの人がわざわざ会場に集まって、普段イヤホンで聴いている人たちの会話を目の前で聴いています。
なぜ、どこでも聴けるPodcastを、わざわざ「場所」にするのでしょうか。
01|SXSWには「Podcast Stage」がある
Vox MediaとSXSWによる公式Podcast Stageは2024年に始まり、2026年で3年目を迎えました。
2026年は3月13日から15日まで、Hilton Austinで開催。Brené Brown、Kara Swisher、Scott Galloway、Marques Brownlee、Esther Perelなど、普段から自分の番組やオーディエンスを持つ人たちが登場しました。
たとえばYouTubeで巨大な視聴者を持つMarques Brownleeは、Waveform: The MKBHD Podcast Liveを公開収録しています。
テクノロジー記者のKara SwisherとNYU教授のScott GallowayによるPivot Liveもあります。
SXSWのSchedule上でも、これらは単なる収録イベントではなく、PanelやPresentationと並ぶ「Podcast」という一つのセッションフォーマットとして扱われています。
02|Podcastを「音声メディア」と考えると、少しわからなくなる
日本でPodcastというと、「インターネットで聴くラジオ」のように説明されることがあります。
もちろんフォーマットとしては音声です。でもSXSWでPodcastを見ていると、その説明だけでは何かが抜け落ちます。
Podcastには、番組より先に「人」がいます。
毎週その人の話を聴く。何年も聴く。考え方や口癖を知っている。何に怒るか、何を面白がるかもだんだん分かってくる。
情報を受け取っているというより、その人と長い時間を過ごしている感覚に近い。
OBSERVATION
Podcastが届けているのは、情報だけではなく「関係」なのかもしれない。
03|「会話そのもの」がイベントになる
Podcast Stageで面白いのは、普段なら一人で聴いている会話を、他の人たちと一緒に聴くことです。
話し手が笑えば、会場も笑う。言葉に詰まれば、その沈黙まで一緒に体験する。
前の記事で取り上げたEsther PerelとSpike JonzeによるLove, Loneliness and AI with Esther Perel and Spike Jonzeも、Vox Media Podcast Stageで行われた「Where Should We Begin?」の公開収録でした。
私はここに、Podcastの面白い反転があると思います。
場所から解放されたはずのメディアが、もう一度、人を場所へ集め始めている。
04|番組ではなく、「人」がメディアになる
Kara Swisherを考えると分かりやすいかもしれません。
彼女はジャーナリストですが、記事を書く人というだけではありません。Podcastがあり、映像があり、イベントに登壇し、SNSでも発信する。
Scott Gallowayも同じです。大学教授であり、起業家であり、著者であり、Podcast Hostでもある。
Marques BrownleeはYouTubeからPodcastへ、Brené Brownは研究や著作からPodcastへ、Esther Perelは心理療法や著作からPodcastへ広がっています。
一つの媒体の中に人が所属するというより、一人の人間を中心に、文章、音声、映像、ライブ、書籍、コミュニティがつながっていく。
MEDIA SHIFT
メディア → 人
番組のファンになる。
ではなく、
その人の話を聴き続ける。
音声を配信する。
ではなく、
その人を中心に複数のメディアと場所が生まれる。
05|短くなるインターネットの中で、Podcastだけが長い
もう一つ気になるのが「時間」です。
SNSは短くなりました。TikTok、Reels、Shorts。ニュースも要約され、AIに「3行でまとめて」と頼むこともできます。
ところがPodcastでは、30分、1時間、時には2時間、人の話を聴き続けます。
結論だけなら数分で読めるかもしれない。それでも、その人がどう考えてそこへ辿り着いたのか、途中で迷ったことや、言葉になり切らない部分まで聴く。
効率化されていく情報環境の中で、Podcastはむしろ「時間をかけるメディア」になっています。
06|AIが情報をつくれるほど、「誰の話を聴くか」が残る
生成AIによって、情報そのものはますますつくりやすくなっています。
調べる。要約する。説明する。文章を書く。映像や音声まで生成する。
だから逆に、「情報がある」だけでは、人がそこに時間を使う理由になりにくくなります。
誰が話しているのか。その人を信頼しているのか。その人が世界をどう見ているのか。何年もその人の考えを追ってきたのか。
情報の希少性が下がるほど、「誰と時間を過ごしたいか」の方が重要になっていくのかもしれません。
07|Podcastは、専門知を「人の声」に戻している
この傾向はSXSW本体だけではありません。
SXSW EDUでは2020年に初めてPodcast Sessionが導入され、2026年にはPodcast Stageが16番組まで拡大しました。
扱われているのは、教育政策、AI、神経多様性、数学教育、10代の読書、若者の人間関係などです。
そして会場で収録して終わりではありません。2026年のStageで収録された番組は、その後実際にエピソードとして公開されています。
カンファレンスで行われた一度きりの会話が、Podcastになることで、会場の外へ持ち出され、別の時間に、別の場所で、また誰かに届いていきます。
日本とアメリカでは、「Podcast」という言葉が指しているものが違う?
Podcastについて調べていると、日本とアメリカの利用率の違いがよく比較されます。
実際、アメリカではPodcastはかなり日常的なメディアになっています。一方、日本でも利用者は増えていて、2026年の国内調査では月1回以上の利用率は18.2%。15〜29歳では32.3%に達しています。
だとすると、私がSXSWで感じた違いは、単純な「普及率」ではないのかもしれません。
日本にも、声を通じて特定の人と長い時間を過ごす文化は昔からあります。
ラジオや深夜放送。声優。VTuber。ASMR。推し文化。
何年も同じ人の声を聴き、その人の考え方や口癖を知り、会ったことがなくても親しさを感じる。そういう経験自体は、決してアメリカだけのものではありません。
それでもSXSWのPodcast Stageを見ていると、少し違って見えます。
Podcastが一つの「番組」として完結していないのです。
ジャーナリスト、研究者、作家、YouTuber、セラピスト。さまざまな人がPodcastを持ち、そこで続いてきた会話が、映像になり、本になり、ライブになり、コミュニティになり、そしてSXSWでは実際に人を同じ場所へ集めています。
JAPAN QUESTION
もしかすると違うのは、Podcastを聴く人の数だけではなく、「Podcast」という言葉で想像しているものの大きさなのではないか。
しかも日本でも、すでにPodcastは「音声だけ」のものではなくなりつつあります。2026年の国内調査では、Podcastユーザーの76.2%が月1回以上ビデオPodcastを視聴し、利用プラットフォームの1位はYouTubeでした。
だとするとこれから面白くなるのは、「Podcastがもっと普及するか」だけではなさそうです。
一人の人の声から始まった会話が、どこまで別のメディアや場所、人との関係へ広がっていくのか。
SXSWのPodcast Stageを見ていて、私はそちらの方が気になりました。
Podcastは、「時間のメディア」なのかもしれない
ここまで考えると、Podcastを音声メディアと呼ぶこと自体が、少し狭く感じます。
Podcastで交換されているのは、声だけではありません。
話す人の時間と、聴く人の時間です。
毎週会う。長い話を聞く。すぐに結論へ行かない。何年も同じ人を追い続ける。そして時々、実際に同じ場所へ集まる。
PERSPECTIVE
Podcastは音声フォーマットではない。
人が長く考え、弱さを語り、他者と関係を結び直すための「時間のメディア」なのかもしれない。
AIが一瞬で答えを返してくれるようになった時代に、1時間かけて誰かの話を聴く。
どこからでも聴けるようになったからこそ、ときどき同じ場所に集まる。
SXSWにPodcast Stageがある理由は、Podcastが新しいメディアだからというより、メディアがもう一度、人と人が時間を共有する場所になり始めているからなのではないかと思います。
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文:宮川麻衣子 / Director of SXSW Japan / Futurist
2026年9月公開



