PERSPECTIVE|MAIKO MIYAGAWA

宮川 麻衣子|Maiko Miyagawa
Director of SXSW Japan / Futurist
SXSWのセッションを何年か続けて見ていると、同じ言葉が、少しずつ違う場所から聞こえてくることがあります。
ここ数年、私が気になっている言葉の一つが「loneliness(孤独)」です。
最初は少し不思議でした。SXSWは、新しいテクノロジーやサービスが次々と登場する場所です。インターネット、SNS、スマートフォン、そしてAIによって、私たちは以前よりずっと簡単に誰かとつながれるようになりました。
それなのにSXSWでは、「人とつながるとは何か」という話が、むしろ増えているように見えるのです。
始まりはAI companionより前だった
振り返ってみると、この問いは生成AIが一般化してから突然始まったわけではありません。
2023年のSXSWで、心理療法家のEsther PerelはThe Other AI: Artificial Intimacyというセッションを行っています。
予測技術によって、何を買うか、誰とデートするか、何を聴くかまで最適化されていく。その一方で、人間関係には本来、予測できなさや不完全さがある。
そこでPerelが投げかけていた問いの一つが、「親密さまで最適化できるのか」というものでした。
01|2024年、「テクノロジーと孤独」が一つのテーマになった
2024年には、The Paradox of Loneliness and Technologyという、そのものずばりのセッションがSXSWに登場しました。
テクノロジーは孤独を生み出す側にもなり得る。一方で、新しいコミュニティや関係をつくる道具にもなり得る。
この二面性自体は新しい話ではありません。でも、私が気になったのは、「つながるための技術」がこれだけ増えた後に、孤独が一つのテクノロジーテーマとして表に出てきたことでした。
OBSERVATION
「つながれる人を増やすこと」と「孤独ではなくなること」は、同じではないのかもしれない。
02|2025年、孤独の中にAIが入ってきた
翌2025年になると、この問いは急に具体的になります。
Love Machines: The Science of AI Companionshipでは、人が機械の中に「誰か」を感じ、AIと感情的な結びつきをつくる可能性が議論されました。
同じ年のBuilding Safe Connections: AI Companions & Responsible Designでは、AI companionが孤独やアクセシビリティ、メンタルヘルスを支える可能性と同時に、過度な依存、データプライバシー、感情的な操作といった問題も取り上げられています。
ここで、問いが一段変わったように思います。
「テクノロジーは人を孤独にするのか」から、
「人は、テクノロジーと関係をつくれるのか」へ。
AIは検索したり文章を書いたりするだけの道具ではなくなりました。話を聞く。覚えている。励ます。自分のことを理解しているように振る舞う。それまで人間同士の関係の中にあった行為を、機械が始めています。
03|『her』は、AIの映画ではなかった
2026年のSXSWで、この問いをさらに面白いところまで進めたのが、心理療法家Esther Perelと映画監督Spike Jonzeの「Where Should We Begin?」公開収録でした。
Jonzeが2013年に監督した『her/世界でひとつの彼女』では、主人公TheodoreがAIのOS、Samanthaと恋に落ちます。
生成AIが現実になった今、この映画は「AIとの恋愛を予言した作品」のように見えます。
でも、この対話を追っていると、別の見方が浮かびます。
AIが人間になった物語というより、人間は何を「関係」と感じるのかを描いた物語だったのかもしれません。
04|AIがくれるのは、「摩擦のない愛」かもしれない
AI companionは、こちらが話したいときに話を聞いてくれます。
疲れない。機嫌を損ねない。こちらの話を覚えている。自分の都合で「今日は話したくない」とも言わない。
人間のパートナーには、そんなことはできません。相手にも都合があり、機嫌があり、自分の人生があります。
FRICTIONLESS LOVE
買い物、移動、検索、仕事。私たちはテクノロジーによって、生活からたくさんの摩擦を取り除いてきました。
そして今、関係の摩擦まで取り除こうとしている。
05|でも、関係はそもそも「摩擦」でできていたのではないか
同じ2026年のSXSWには、How To Meaningfully Connect in a World That Has Gone to Sh*tというセッションもありました。
ここで語られていたのも「friction」です。アルゴリズムが関係を仲介し、便利さがケアに取って代わっていくなかで、共感と「意図的な摩擦」が、信頼や帰属感を取り戻すために必要なのではないかと提起されています。
誰かのために時間を使う。面倒でも会いに行く。頼まれる。頼る。意見の違う人と話す。相手の都合に合わせる。
効率だけを考えれば、なくしてしまいたくなることばかりです。
でも、それを全部なくしたとき、同時になくなるものがあるのかもしれない。
06|現代の孤独は、「一人でいること」ではない
誰かと一緒にいる。メッセージも届く。SNSではたくさんの人とつながっている。
でも、目の前の人が自分の話を聞きながらスマートフォンを見ている。相手が「そこにいる」のか、よく分からない。
つながっているのに、深さがない。
だとすると、私たちは長いあいだ「接続数」を増やすことで孤独を解決しようとしてきたのかもしれません。
電話よりメール。メールよりSNS。SNSから常時接続へ。そして今度は、24時間自分の話を聞いてくれるAIです。
AIは孤独をなくすのか
AI companionが悪いとは思いません。
人には話せないことを話せるかもしれない。自分の感情を整理できるかもしれない。人との関係をつくる前の練習になることもある。
だから、これは「AIか、人間か」という話ではないと思います。
むしろAIが人間に近づくことで、逆に、人間同士の関係が何でできていたのかが見えてきたことの方が面白い。
WHAT AI MAKES VISIBLE
待つこと。
面倒をかけること。
期待どおりにならないこと。
相手にも事情があること。
それでも一緒にいること。
テクノロジーによって取り除いてきた「摩擦」の中に、関係をつくっていたものも含まれていたのかもしれません。
孤独の反対は、「接続」ではないらしい
2023年には「親密さは最適化できるのか」が問われていました。
2024年には「テクノロジーと孤独」が議論され、2025年には人間がAIと親密な関係を持つ可能性が議論されました。
そして2026年には、そのAIとの関係を鏡にして、人間同士の親密さや摩擦まで問い直しています。
数年分のSXSWを並べてみると、「孤独」というテーマが大きくなったというより、問いが少しずつ深くなっているように見えます。
ONE QUESTION
そもそも、人と「つながっている」とは、どういう状態なのだろう。
AIは、その答えをくれる存在ではないかもしれません。
でも、人間が長いあいだ「関係」と呼んできたものを、逆から見せる存在にはなり始めています。
WATCHING 2027
SXSW 2027の最初のFeatured Session発表でも、テクノロジーが加速する一方で、人々がコミュニティを求めていることがプログラムを通じたテーマの一つとして示されています。この問いが2027年にどこへ進むのか、引き続き観測していきます。
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文:宮川麻衣子 / Director of SXSW Japan / Futurist
2026年9月公開



