AIが何でもできる時代、「私は必要とされている」はどこから生まれる?──SXSWから考えるMattering

Mattering

PERSPECTIVE|MAIKO MIYAGAWA

Director of SXSW Japan / Futurist / 宮川麻衣子

宮川 麻衣子|Maiko Miyagawa

Director of SXSW Japan / Futurist

AIに仕事を任せられる。

AIに相談できる。自分の好みを覚えてくれる。寂しいときには話し相手にもなってくれる。

できることが増えていくほど、逆に気になってくることがあります。

私は、誰かに必要とされているだろうか。

01|SXSW 2026に現れた「Mattering」

2026年のSXSWで、私は「Mattering」という言葉が気になりました。

直訳しにくい言葉です。「自分には意味がある」「自分は大切な存在だ」と感じられること、と言えば近いでしょうか。

2026年には、ジャーナリストでThe Mattering Instituteを設立したJennifer B. Wallaceが、Keynote: Jennifer B Wallaceで、このMatteringを正面から取り上げました。

Wallaceの定義で面白いのは、Matteringには二つの方向があることです。

MATTERING

自分が大切にされていると感じること。

そして、自分も誰かや世界に何かを与えていると感じること。

ただ愛されることでも、ただ役に立つことでもない。その両方があることで、「自分はここにいていい」ではなく、もう一歩強い、「自分がここにいることには意味がある」という感覚が生まれます。

02|「つながる」の次に出てきた問い

この言葉が突然出てきたわけではありません。

2025年のSXSWでは、Kasley KillamがOpening SessionでSocial Healthを取り上げました。

身体の健康、心の健康と同じように、人との関係から生まれる「社会的な健康」を考える必要がある、というものです。SXSW自身も2025年のプログラム発表で、意味のある人間関係が健康やウェルビーイングに重要だというKillamの議論を紹介しています。

そして2026年にはKillamが、Social Health Trends & Predictions: Connection is the New Frontierで再び登壇しています。

ここまで追うと、少しずつ問いが深くなっているように見えます。

QUESTION SHIFT

人とつながっているか。
↓
良い関係を持っているか。
↓
その関係の中で、自分の存在に意味を感じられているか。

03|孤独とは、「一人でいること」だけなのだろうか

このシリーズの最初の記事では、AIと孤独について考えました。

人と会えば孤独ではない。会話の量を増やせば孤独ではない。AIが24時間話してくれれば孤独ではない。

そう単純ではないことが、だんだん見えてきます。

大勢の人に囲まれていても、自分がいなくなっても誰も困らないように感じることがあります。

反対に、たった一人でも「あなたにいてほしい」と思ってくれる人がいることで、自分の居場所を感じることもあります。

孤独の反対は、人の多さではなく、「自分が誰かにとって意味のある存在だ」という感覚なのかもしれません。

04|AIは「あなたは大切だ」と言える

ここでAIが入ってくると、少し複雑になります。

AIは、私の話を聞けます。過去の会話を覚え、好みを学び、励まし、肯定し、「あなたは大切だ」と言うこともできます。

2026年のSocial Health Trends & Predictionsでも、AI companionが人間関係を支えるのか、それとも代替してしまうのかが論点の一つになりました。

ここでMatteringを考えると、AIとの関係について別の問いが出てきます。

ONE QUESTION

「あなたは大切です」と言われることと、「私にとって、あなたが必要です」と誰かに思われることは、同じなのだろうか。

05|「必要とされる」は、効率が悪い

WallaceはMatteringを構成する要素を、Significant、Appreciated、Invested in、Depended onの4つに整理しています。

その中で私が特に気になったのが、最後のDepended onです。

誰かから頼られている。自分が必要とされている。自分がいなければ、少し困る人がいる。

考えてみれば、これは効率化とは反対方向にあります。

仕事では、特定の人がいなくても回る仕組みをつくる。属人性をなくす。自動化する。AIに任せる。

それ自体は必要なことです。

でも、人間のウェルビーイングから見ると、「自分がいなくても何も変わらない世界」を完成させることが、本当に理想なのだろうか。

06|「役に立つ」と「存在に意味がある」を分けてみる

AIの話をすると、よく「人間にしかできないことは何か」という問いが出てきます。

創造性。共感。判断。コミュニケーション。身体性。

でも私は最近、この問い自体が少し気になっています。

「AIにできないこと」を人間の価値にしてしまうと、AIができることを増やすたびに、人間の価値の領域が狭くなっていくからです。

PREMISE SHIFT

人間の価値は、「人間にしかできないこと」の中にある。
↓
能力と、存在の価値は、そもそも別のものではないか。

子どもが自分より速く計算できるから愛するわけではない。友人が誰より優れた助言をくれるから会いたいわけでもない。

その人だから、いてほしい。

07|SXSW 2026の「Deeply Human」を、私はこう読んだ

2026年のSXSWをまとめたPwCのInsights Reportには、「The Future Belongs to the Deeply Human」というタイトルがつけられています。

その中には、Matteringについて「You can’t automate mattering」という一節もあります。

私はこの「Deeply Human」を、人間だけが持つ特別な能力を探そう、という意味にはあまり読みたくありません。

AIより創造的でいよう。AIより共感しよう。AIより人間らしく働こう。

そういう競争を始めた瞬間に、人間もまた性能で測られる側に入ってしまうからです。

AI時代に希少になるのは、「人間にしかできない能力」ではない

Matteringについて調べながら、私は前の3つの記事のことを考えていました。

孤独の記事では、接続されることと、関係があることは同じではないと考えました。

グリーフの記事では、死んだ後もデータやAIによって関係が続く時代に、「別れる」とは何かを考えました。

Podcastの記事では、情報そのものよりも、「誰と時間を過ごすか」が価値になっているのではないかと考えました。

そしてMatteringまで来ると、その中心にあったものが少し見えてきます。

PERSPECTIVE

AI時代に希少になるのは、人間にしかできない能力ではなく、「あなたでなければならない」と互いに思える関係なのかもしれない。

私が仕事をしなくても、AIができる。

私が答えなくても、AIが答えてくれる。

それでも、私にいてほしい人がいる。

そして私も、誰でもいいわけではなく、その人にいてほしいと思う。

「役に立つ」からではなく、「あなたがいることが、私にとって重要だ」と言える関係。

AIによって人間の能力の境界が動き続けるこれから、Matteringという言葉は、「人間に何が残るのか」ではなく、「私たちは互いを、どんな存在として必要とするのか」を考えるための言葉になる気がしています。

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文:宮川麻衣子 / Director of SXSW Japan / Futurist
2026年9月公開