SXSWで見てきた『未来が感覚になる瞬間』|2017〜2026、アートとテクノロジー10年

FUTURIST’S VIEW|ART & TECHNOLOGY

アートには、まだ社会でうまく言葉になっていない変化が、先に「感覚」として現れることがあります。

私は2012年からSXSWを継続して見てきました。この記事では、2017年から2026年までにSXSWで出会った作品を振り返りながら、アーティストたちがテクノロジーを使って「何を見えるようにしようとしてきたのか」を追ってみます。

宮川麻衣子

宮川麻衣子
Director of SXSW Japan
Futurist / SXSW Official Speaker

SXSWというと、スタートアップや新しいテクノロジー、映画、音楽を思い浮かべる人が多いかもしれません。

でも私が毎年楽しみにしてきたものの一つに、アートがあります。

SXSWでは2017年以降、テクノロジーや没入型環境を使った作品が数多く紹介されてきました。光や音に包まれる作品、都市のデータを詩へ変換する作品、地球環境の変化を3Dスキャンする作品、人間と動物の境界を揺さぶる作品。これらを一つずつ見るだけでも面白いのですが、約10年分を並べると、別のものが見えてきます。

アーティストたちがテクノロジーを使って「何を見えるようにしようとしているか」が、少しずつ変わっているのです。

WHAT WAS CHANGING?

最初は、デジタル技術によって日常にはない世界へ入ること自体が新鮮でした。

その後、テクノロジーは都市や地球を読み直すために使われ、さらに身体やアイデンティティの境界へ入り込みます。

そしてAIが日常に入った現在、問われているのは「新しい技術で何ができるか」だけではなく、「その技術と生きる私たちは何者になるのか」というところまで広がっています。

2017|未来は「別の世界へ入ること」だった

IMMERSION

Infinity Room / Refik Anadol

Infinity Room by Refik Anadol - Photo by Merrick Ales
Infinity Room by Refik Anadol – Photo by Merrick Ales

SXSW Art Programが始まった2017年。そこで展示された作品の一つが、Refik Anadolの《Infinity Room》でした。

鏡張りの空間に光と映像が投影され、音とともに空間全体が変化していく没入型インスタレーションです。

部屋へ入ると、床や壁という境界が曖昧になり、自分がどこに立っているのかという感覚まで揺さぶられる。

今では、巨大なプロジェクションや没入型展示を見る機会は珍しくありません。しかし当時は、デジタル技術によって「現実とは別の空間へ身体ごと入る」こと自体に、未来らしさがありました。

VRやARも盛り上がり始め、テクノロジーによって物理世界とは違う現実をつくれるという期待が強かった時代です。

《Infinity Room》も、テクノロジーを説明する作品ではありません。その中に身体を置くことで、感覚の側から現実を揺さぶります。

FUTURIST’S NOTE

いま自分が感じているこの空間は、本物なのか。振り返ってみると、2010年代後半のアートとテクノロジーには、「新しい世界をつくる」という方向性が強くあったように思います。

2019|データが「世界の別の見方」になり始める

DATA

EVERY THING EVERY TIME / Naho Matsuda

EVERY THING EVERY TIME by Naho Matsuda - Photo by Matt Ward
EVERY THING EVERY TIME by Naho Matsuda – Photo by Matt Ward

2019年に展示されたNaho Matsudaの《EVERY THING EVERY TIME》は、都市から生まれるデータを使った作品でした。

交通、天候、街の出来事など、都市で刻々と生成される情報を収集し、それを詩的な文章へと変換して表示します。

データというと普通は、グラフや数字で「世界を正確に測るもの」と考えます。

でもこの作品では、データは測定のためではなく、都市を別の角度から見るための素材になります。

普段なら数字として処理されてしまう情報が、言葉になった瞬間、街に別の人格があるように見えてくる。

私がこの作品を面白いと思うのは、テクノロジーが「新しい仮想世界をつくる」ためではなく、すでに存在している現実を、違う分類や感覚で見直すために使われているところです。

私たちは同じ都市に暮らしていても、何をデータとして取り出し、どう並べるかによって、まったく別の都市を見ることができます。

FUTURIST’S NOTE

同じ現実を、別の方法で見ることはできるか。2017年の《Infinity Room》が「別の世界へ入る」作品だったとすれば、2019年には、同じ世界を違う方法で読み直す方向が見え始めていました。

2020–2021

2020年のSXSWは新型コロナウイルスの影響で開催中止となり、2021年はオンラインで開催されました。オースティンで身体ごと作品を体験するArt Programの時間軸にも、大きな断絶が生まれました。

2022|見えない地球の変化を、身体で感じる

EARTH

FRAMERATE: Pulse of the Earth / ScanLAB Projects

2022年、オースティンでのリアル開催が戻ってきました。

その年のArt Programで展示された《FRAMERATE: Pulse of the Earth》は、ScanLAB Projectsによる作品です。

彼らはレーザースキャンを使い、風景をミリメートル単位で3Dデータとして記録します。

建設、浸食、木々の成長、季節、人間によって変わっていく土地。普段はゆっくり進むため私たちには認識しにくい変化を、巨大な映像の中で時間を圧縮して見せました。

ここで興味深いのは、使われているのが「計測」の技術であることです。

レーザースキャンそのものは、現実を正確に記録するための技術です。ところが、正確に記録されたデータを時間軸で並べ、巨大な空間で身体的に体験すると、数字では理解していた環境変化が、感覚へ変わる。

気候変動について、私たちは大量の数字を知っています。何度気温が上昇した。海面が何センチ上がった。森林が何ヘクタール失われた。

でも、「知っている」ことと「感じる」ことは同じではありません。

FUTURIST’S NOTE

人間の時間感覚では捉えにくい変化を、どうすれば身体で感じられるのか。ここではアートが、科学的なデータを説明するのではなく、人間が感じられる速度へ変換する装置になっていました。

2023|テクノロジーが「人間とは何か」に入ってくる

BODY

Mixanthropy / Meichun Cai & Yiou Wang

2023年の《Mixanthropy》では、テーマがさらに身体へ近づきます。

作品に登場するのは、人間と動物の姿を行き来する「Mixanthrope」。アーティスト自身の動きをモーションキャプチャし、3Dモデルへ移すことで、人間、動物、そのどちらとも言えない身体へと変化していきます。

16台のホログラフィックディスプレイに現れる存在は、一つの安定した身体を持ちません。

人間なのか。動物なのか。デジタルな存在なのか。

その境界を行き来し続けます。

面白いのは、ここでテクノロジーが「外側の世界」を変えるだけのものではなくなっていることです。

FUTURIST’S NOTE

テクノロジーによって身体そのものを変えられるなら、どこまでが人間なのか。テクノロジーは便利な道具でも、仮想世界への入口でもなく、人間という存在をどう定義するかに関わるものになってきました。

2024|データを「知る」だけでは、人は動かない

CLIMATE

Smoke and Mirrors / Beatie Wolfe

2024年の《Smoke and Mirrors》では、再びデータが登場します。

Beatie Wolfeが扱ったのは、気候変動、とりわけ大気中のメタン濃度の変化です。過去数十年にわたるデータを、作品として視覚化しました。

2019年の《EVERY THING EVERY TIME》もデータを使っていました。しかし両者を並べると、少し違って見えます。

2019年は、データを使えば都市をどんな別の見方で捉えられるか。

2024年は、すでに事実を知っているのに人が行動しないとき、どうすればそれをもう一度「感じる」ことができるか。

気候変動は、情報が足りない問題ではなくなっています。数字もグラフもニュースもある。それでも、人間は必ずしも行動するわけではありません。

FUTURIST’S NOTE

事実を知ることと、それを自分の問題として感じることの間には、何があるのか。アートの役割も、「情報を伝えること」から、情報と人間の感情の間をつなぎ直すことへ変わっているように見えます。

2025|「没入」は新技術ではなく、自分を見るための装置になる

PERCEPTION

NOWISWHENWEARE (the stars) / Andrew Schneider

ここまでの記事では、Art Programという名称のプログラムを中心に見てきました。

ただ、SXSWでアートとテクノロジーの交差を追うなら、プログラム名だけを見ていると足りません。XR ExperienceやSpecial Event、Designなどにも同じ問いが広がっています。

2025年に展示されたAndrew Schneiderの《NOWISWHENWEARE (the stars)》も、その一つです。

観客は暗闇の中へ入り、数千の反応する光と多層的な音響に囲まれます。星空や宇宙、自分より前に存在した人々とのつながりを探る、内省的な体験です。

ここで改めて2017年の《Infinity Room》を思い出します。

どちらも光と空間に身体ごと入る作品です。でも、約8年を隔てて見ると、「没入」の意味が少し変わっているように感じます。

2017年には、デジタル技術によって現実とは違う世界に入れること自体が新しかった。

2025年には、没入型技術はそれほど珍しいものではありません。

FUTURIST’S NOTE

この環境の中で、あなたは何を感じるのか。技術を見せるための没入から、人間自身を見つめるための没入へ。「Immersive」という言葉の意味も少しずつ変わっています。

SXSW 2025公式プログラムを見る

2026|AIが考え、人間の身体だけが残ったら?

AI × BODY

Body Proxy

2026年のSXSWでは、XR Experience Competitionの作品にも、AIと身体の関係が強く現れていました。

《Body Proxy》の設定は非常に直接的です。

Human-as-a-Service: The AI does the thinking, you do the heavy lifting.

AIが考え、人間は身体を貸す。

人間の身体を、AIが現実世界へ作用するための「Proxy=代理」として扱う世界です。

これは、単に「AIを使ったアート作品」という話ではありません。

AIが画面の中で文章や画像をつくる存在から、現実世界で行動する主体へ近づいていくとき、思考するのは誰なのか。判断するのは誰なのか。身体を動かしているのは誰なのか。その境界が曖昧になります。

同じ2026年、DesignトラックではNeuroaestheticsも扱われました。アートやデザイン、文化、テクノロジーが脳や身体へどう作用し、感情や行動を変えるのかを科学的に捉えようとする領域です。

FUTURIST’S NOTE

AIが思考し、テクノロジーが感情や身体にまで入ってくるとき、「人間がすること」はどこに残るのか。2017年にはテクノロジーによって「別の空間」をつくっていました。2026年には、人間の身体や感情そのものがテクノロジーと作品のインターフェースになっています。

10年を並べると、テクノロジーの「場所」が変わっている

これらは、それぞれ別のアーティストが、別の目的でつくった作品です。

SXSWのアート全体が一直線に進化してきた、という話ではありません。

ただ、私が現地で見てきた作品と、その周辺のプログラムを時間軸で並べると、一つの変化が見えてきます。

年作品から見える変化
2017テクノロジーで、現実とは違う空間をつくる
2019データで、同じ現実を別の角度から見る
2022見えない地球の変化を、身体で感じる
2023身体や生命の境界そのものを問い直す
2024データと感情の距離を埋める
2025没入技術を、自分自身を感じるために使う
2026AI・身体・感情の境界が曖昧になる

最初は、テクノロジーが作品の「外側」に見えていました。

巨大な映像。プロジェクション。センサー。3Dスキャン。ホログラム。

新しい技術そのものが、作品を成立させる重要な要素だった。

でも時間が経つにつれて、テクノロジーは見えにくくなり、その代わりに、都市、地球、身体、感情、人間性のようなものが前に出てきています。

技術が消えたのではありません。

社会の中へ入り込みすぎて、あえて「テクノロジー」と呼ばなくても存在するようになったのだと思います。

WHAT WAS CHANGING?

2017 —— テクノロジーで別の現実をつくる。

2019 —— データで現実を別の角度から見る。

2022–2024 —— 地球や身体の変化を感覚へ変換する。

2025–2026 —— テクノロジーを見せるのではなく、人間の知覚・身体・感情そのものを問い始める。

未来は、言葉になる前に感覚として現れる

私がSXSWのアートを見るのが好きなのは、そこに「答え」があるからではありません。

むしろ、まだ言葉にできないものに出会えるからです。

新しいテクノロジーが出てきたとき、私たちはすぐに、「どんなビジネスに使えるのか」「市場規模はどれくらいなのか」「社会はどう変わるのか」と説明しようとします。

でも、社会が本当に変わる前には、まだうまく説明できない期間があります。

何かが少し気持ち悪い。妙に惹かれる。自分の身体の感覚が変わる。今まで普通だと思っていたものが、急に不思議に見える。

アーティストは、そういうまだ名前のない変化を、言葉より先に扱うことがあります。

FUTURIST’S NOTE

2017年の作品を見て、「没入型体験市場が成長する」と考える必要はありませんでした。2023年の《Mixanthropy》を見て、「人間拡張市場が来る」と結論づける必要もありません。

まず、「なぜ私はこれを奇妙だと思ったのか」と考えてみる。

その違和感の中に、自分が現実を理解するために使っている前提が現れます。

未来を考えるとき、私はアートを「未来予測の材料」として見ているわけではありません。まだ社会が言葉を持っていない変化を、先に感じるための場所。SXSWのアートを長く見てきて、私はそう考えるようになりました。

「最新技術」より、その技術で何を感じさせようとしているか

SXSWでアートを見るとき、「これは何の技術を使っているのか」を知るのも面白いです。

でも、それだけなら技術展示を見ることとあまり変わりません。

私が今、より気になるのは、なぜ、この技術でこの感覚をつくろうとしたのか。ということです。

3Dスキャンを使って地球を見せる。都市データを詩にする。モーションキャプチャで人間ではない身体をつくる。AIに思考させ、人間を身体だけの存在として描く。

そこには、その時代の人々がまだうまく説明できていない不安や期待、現実感の変化が現れています。

だから、数年前の作品をいま見直すことにも意味があります。

当時は奇妙だったものが、すでに普通になっていることがある。反対に、大きく期待された技術が消えていることもある。

あの作品が問いかけていたことを、今まさに私たちは生きている。

そう気づく瞬間があります。

それが、長く観測する面白さです。

文:宮川麻衣子/SXSW Japan Director・Futurist
2024年公開・2026年9月更新。過去のSXSW Art Programおよび関連するXR・Designプログラムを、長期観測の視点から再構成しています。