SXSW KEYWORDS #06|次に仕事で聞く言葉
「美しい」「落ち着く」「集中しやすい」を、感覚だけで終わらせず、脳や身体への作用から調べる。アート研究から、空間、ファッション、ウェルビーイング、デザイン実務へ広がっている言葉です。
「SXSW KEYWORDS」は、世界で使われ始めた新しい言葉を取り上げ、その意味と背景、SXSWで関連するテーマがどう語られていたかを短く紹介するシリーズです。まだ日本ではあまり聞かないけれど、意味を知ると「あ、それ最近あるかも」と思える言葉。そんな、これから仕事の中で耳にするかもしれないキーワードを、FuturistでありSXSW Japan代表の宮川の視点から追っていきます。
KEYWORD GUIDE
ニューロエステティクスとは?
「この空間は落ち着く」「この色を見ると気分が変わる」「この素材には触れたくなる」。これまで感覚的に語られてきた反応を、脳や身体の働きから調べ、デザインにも活かそうとする研究領域があります。
Neuroaesthetics
ニューロエステティクス/神経美学
美的体験や芸術的活動に関係する脳機能と認知の仕組みを研究する、認知神経科学の一分野です。
日本語では「神経美学」と訳されます。美醜、感動、崇高、芸術作品の知覚や価値判断などを、心理学や脳科学の方法で調べます。
Neuroaesthetics自体は2026年に突然生まれた言葉ではありません。研究分野としては2000年代から発展してきました。
今、改めて注目したいのは、その研究が「作品を見た時に脳で何が起きるか」から、「空間やプロダクトをどう設計するか」へ広がっていることです。
研究からデザインへ、何が変わっている?
建築設計会社HOKは2026年、Neuroaestheticsをテーマにした年次レポート “Wired for Beauty—Neuroaesthetics in the Built Environment” を公開しました。
そこでは、色、光、空間の関係、素材などが、人の感情、快適さ、行動にどう作用するかを、建築・インテリア設計の実務へ持ち込んでいます。
「きれいな空間をつくる」だけでなく、その空間にいる人がどう感じ、どう振る舞うかまで設計対象として考える。Neuroaestheticsは、そのための研究とデザインをつなぐ言葉として使われ始めています。
こんな時に使える?!
ニューロエステティクスは、デザインを「見た目がよいか」だけでなく、人の感情、集中、安心感、行動への作用まで含めて考えたい時に使えます。
“We should look at this space through a neuroaesthetics lens, not just visual branding.”
「この空間、見た目のブランド表現だけでなく、ニューロエステティクスの視点でも見た方がいいですね」
- 「このオフィス、集中しやすいかまで含めてNeuroaestheticsで考えられないかな」
「店舗デザインも、色や照明が人の気分や行動にどう影響するかまで設計する時代になってきていますね」
空間だけでなく、プロダクト、ファッション、展示、イベント、ウェルビーイングなどにも応用できます。
日本ではどう広がっている?
日本では、「ニューロエステティクス」というカタカナ語が最近急に流行したというより、「神経美学」という研究分野として先に蓄積があります。
2019年には、石津智大氏による『神経美学 美と芸術の脳科学』が出版されました。2022年には日本神経回路学会誌で「美と悲哀の神経美学」が発表され、神経美学を「様々な美学的体験や芸術的活動に関係する脳機能と認知の仕組みを研究する認知神経科学の一分野」と説明しています。
関西大学には現在、神経美学・芸術と感性の心理学ラボがあり、芸術作品や美的判断だけでなく、高齢者施設や公共空間のウェルビーイング、購買行動など、実社会への応用も研究しています。
つまり日本では、新しい学問が入ってきたというより、すでにある研究領域が、デザインやビジネスの言葉としてどこまで広がるかを見る段階にあります。
SXSW VIEW
SXSW 2026では、そのまま「Neuroaesthetics」が使われていた
SXSW 2026では、“Neuroaesthetics in the Future of Design” というセッションが開催されました。
SXSW 2026 SESSION
登壇者は、Google Arts & CultureのFreya Salway、International Arts + Mind LabのSusan Magsamen、Kinda StudiosのRobyn Landau、アーティストのLachlan Turczanです。
SXSWのセッション説明ではNeuroaestheticsを、アート、デザイン、文化、テクノロジーが脳と身体を形づくり、感情、つながり、行動に影響することを扱う科学として紹介しています。
研究成果を、健康、意味、人間の体験を考えるためのデザインツールへどうつなげるかが、このセッションのテーマでした。
SXSW 2026 SESSION
同じSXSW 2026では、服、靴、色、質感が、記憶、気分、集中、感情にどう作用するかを扱うセッションも開催されています。
Neuroaestheticsが「美術と脳」の研究だけにとどまらず、空間、ファッション、テクノロジー、体験設計へ広がっていることが、SXSWのプログラムからも見えます。

宮川麻衣子
Futurist
SXSW Japan 代表
2012年よりSXSWに継続参加
Futurist Perspective
「美しいデザイン」と言う時、これまではかなり感覚的に話していた気がします。
でもNeuroaestheticsを知ると、光、色、音、素材、空間が、人の気分や集中、安心感にどう作用するのかまで考えられる。
面白いのは、美しさを数値だけで決めることではなく、「なぜこの空間では落ち着くのか」「なぜここでは長くいたくなるのか」を、感覚だけで終わらせず調べ始めていることです。
KEYWORD TIMELINE
「Neuroaesthetics」はこのように広がっている
2000年代〜
Neuroaesthetics / 神経美学が、美的体験や芸術的活動と脳・認知の関係を研究する領域として発展する。
2019年
日本で石津智大『神経美学 美と芸術の脳科学』が出版される。
2022年
日本神経回路学会誌に「美と悲哀の神経美学」が掲載。美的体験や芸術活動を脳機能と認知から研究する領域として整理される。
2026年3月
SXSW 2026で「Neuroaesthetics in the Future of Design」を開催。研究領域を、Designの未来を考えるテーマとして扱う。
2026年
HOKが「Wired for Beauty」を公開。Neuroaestheticsを建築、インテリア、空間設計の実務へ応用する方法を整理する。
2026年現在
アート研究だけでなく、建築、オフィス、ファッション、ウェルビーイング、体験設計などへの応用が進んでいる。



