SXSW KEYWORDS #07|次に仕事で聞く言葉
AIが商品を探し、比較し、条件を判断し、購入まで行う。そうなると企業が相手にする「顧客」は、人間だけではなくなります。
「SXSW KEYWORDS」は、世界で使われ始めた新しい言葉を取り上げ、その意味と背景、SXSWで関連するテーマがどう語られていたかを短く紹介するシリーズです。まだ日本ではあまり聞かないけれど、意味を知ると「あ、それ最近あるかも」と思える言葉。そんな、これから仕事の中で耳にするかもしれないキーワードを、FuturistでありSXSW Japan代表の宮川の視点から追っていきます。
KEYWORD GUIDE
マシン・カスタマーとは?
これまでAIは、商品をおすすめしたり、問い合わせに答えたり、企業が「売る」ために使うものとして語られることが多くありました。ところが今、AIエージェント自身が商品を探し、比較し、条件を判断し、場合によっては購入まで行うようになっています。
Machine Customer
マシン・カスタマー
GartnerはMachine Customerを、支払いと引き換えにモノやサービスを取得する、人間以外の経済主体として説明しています。
AIエージェントだけでなく、スマート家電、コネクテッドカー、IoT対応の工場設備なども、人や企業に代わって商品やサービスを購入すればMachine Customerになり得ます。
たとえば、冷蔵庫が足りなくなった食材を注文する。プリンターがトナーを補充する。工場設備が必要な部品を発注する。AIエージェントが出張条件を比較して航空券を購入する。
購入するための操作を人間が毎回行わなくても、機械側が必要性を判断して取引します。
この言葉のどこが面白い?
ポイントは、AIが「買い物を手伝う」ことだけではありません。
企業が相手にする顧客そのものが、人間だけではなくなることです。
人間なら、「このブランドが好き」「広告を見て気になった」「店員の説明がよかった」という理由で商品を選ぶことがあります。
AIエージェントの場合は、価格、納期、仕様、契約条件、レビュー、利用者の設定などを比較して選ぶ可能性があります。
すると企業側にも、人にどう見せるかに加えて、機械からどう読まれ、比較され、選ばれるかという問題が出てきます。
こんな時に使える?!
マシン・カスタマーは、AIエージェントや機械が「利用者」ではなく、実際に商品やサービスを選び、取引する主体になっていることを話す時に使えます。
“Our next customer might be a machine customer comparing us on behalf of a human.”
「次の顧客は、人間の代わりに比較しているマシン・カスタマーかもしれない」
- 「このECサイト、人が見やすいだけでなくMachine Customerから読みやすいですかね」
「ブランドを人に覚えてもらう話と、AIエージェントに選んでもらう話は分けて考えた方がよさそう」
マーケティングだけでなく、EC、営業、商品情報、API、決済、カスタマーエクスペリエンス、B2B購買まで関わる言葉です。
日本ではどう広がっている?
日本ではまだ「マシン・カスタマー」が一般的なビジネス用語になったとは言えません。
ただ、2026年7月にはGartner Japanが、「マシン・カスタマーとは? 定義、具体例と企業への影響を解説」という日本語記事を公開しました。
Gartnerは、顧客として振る舞える機械が約50億台から2030年には約120億台へ増え、2030年には企業収益の約20%がMachine Customer由来になると予測しています。
同時にGartnerは、Agentic AIを中核とする「自律型ビジネス」の構成要素の一つとしてもMachine Customerを位置づけています。
数年前には「機械が顧客になる」という未来予測として語られていた概念が、2026年にはAIエージェント導入後の販売やシステム設計を考える言葉へ近づいています。
SXSW VIEW
SXSW 2026では「AIが買う」ことがかなり具体的に議論されていた
SXSW 2026の公開スケジュールでは、Machine Customerという言葉そのものをセッションタイトルにしたものは確認できませんでした。
ただし、その現象はかなり直接的に扱われています。今回はConceptual Matchです。
SXSW 2026 SESSION
このセッションでは、AIエージェントが商品を発見し、推薦し、購入まで行うことで、従来の購買行動がどう変わるのかを扱っています。ブランドの可視性、信頼、プラットフォーム、マーケティングがどう変わるかも議論されています。
SXSW 2026 SESSION
Tech & AI Trackでは、AIエージェントが推薦する段階を超えて、自ら意思決定し、取引を実行する状況が扱われました。
公式説明には、“experiences are increasingly optimized for machines, not humans” という表現もあります。オンラインの体験そのものが、人だけでなく機械が利用することを前提に設計され始めるという話です。
SXSW LONDON 2026 SESSION
SXSW London 2026では、“What happens to a brand when the consumer is no longer human?” という問いがそのまま置かれました。AIが比較し、購入する時、ブランドはどう見つけてもらうのか。ブランドロイヤルティは残るのか。誰がAIの購入に責任を持つのか、といった問題が扱われています。
Machine Customerという言葉を知ると、これらのSXSWセッションが、「人間以外の顧客が取引に参加する」という同じ変化を別々の角度から扱っていたことが分かります。

宮川麻衣子
Futurist
SXSW Japan 代表
2012年よりSXSWに継続参加
Futurist Perspective
これまで「顧客を理解する」と言えば、人が何を欲しいのか、なぜ買うのかを考えることでした。
でもAIエージェントが商品を探し、比較し、購入するようになると、商品を使う人と、実際に選ぶ相手が同じとは限らなくなります。
Machine Customerという言葉を知ると、ECサイトやブランドを見る時にも、「これは人に向けて作られているけれど、機械にはどう見えているんだろう」と考えるようになります。
顧客という言葉の中に、人間以外が入ってきたこと自体がかなり大きな変化だと思います。
KEYWORD TIMELINE
「Machine Customer」はこのように現実へ近づいている
2023年
GartnerのDon ScheibenreifとMark Raskinoが『When Machines Become Customers』を出版。Machine Customerを企業戦略のテーマとして体系的に提示する。
2024年〜
B2B Sales、Banking、Digital Commerceなど、個別の業界や業務でMachine Customerへの対応が議論される。Agentic AIによって、機械側の判断や取引の自律性も高まる。
2026年3月
SXSW 2026で「When AI Shops for You」「What Happens When Software Can Transact Autonomously?」など、AIが購買・取引を行うAgentic Commerceのセッションが開催される。
2026年6月
SXSW Londonで「Surviving the Era of Agentic Commerce」を開催。「消費者が人間でなくなった時、ブランドはどうなるか」を議論する。
2026年7月
Gartner Japanが日本語でMachine Customerの定義、具体例、企業への影響を解説する。
2026年現在
IoTによる自動補充だけでなく、AIエージェントが商品を検索、比較、選択、購入するAgentic Commerceと接続して語られるようになっている。



