WEBINAR REPORT|NEW BUSINESS DEVELOPMENT
新規事業のアイデアを探すために、海外の最新事例を調べる。展示会やカンファレンスへ視察に行く。スタートアップの事例を集める。
それでも、帰国後に残るのは「面白かった」という感想と大量の資料だけ。自社の新規事業にはなかなかつながらない、ということがあります。
では、最先端の事例をどう見れば、自社の次の事業を考える材料になるのでしょうか。
2026年9月、SXSW Japanでは株式会社MUSUBI代表取締役の田中裕一さんを迎え、「最先端事例からみる新規事業のつくり方」をテーマにウェビナーを開催しました。
前半では、2012年からSXSWをはじめ世界の変化を継続的に観測してきたVISIONGRAPHから、最先端事例をどのように読み、自社の事業を考える材料へ変えているのかを紹介。
後半では、DeNAやビズリーチなどで新規事業や組織づくりに携わり、現在はMUSUBIを率いる田中さんから、企業のインキュベーションの現場で起きている変化について紹介いただきました。
世界の変化を観測してきたVISIONGRAPHと、企業の中で実際に事業をつくってきたMUSUBI。二つの視点を重ねると、新規事業のアイデアを「情報」で終わらせないためのヒントが見えてきます。
最先端事例は、そのままでは新規事業にならない
VISIONGRAPHでは、SXSWを「未来の答えがある場所」とは考えていません。
むしろ、まだ整理されていない変化を観測する場所として捉えています。
新しい技術。スタートアップによる実験。生活者の行動。文化や価値観の変化。制度がまだ追いついていない新しい仕組み。
SXSWには、それらが異なるジャンルをまたいで同時に現れます。
なぜ、今これが必要とされているのか。
これまで当たり前だった何が、変わり始めているのか。
VISIONGRAPHでは、長年のSXSW観測を通じて、こうした「流行の奥にある変化」を読み取ってきました。
SXSWそのものが仮説をつくってくれるわけではありません。
観測した断片にどのような意味を与え、自社の文脈で読み直すか。そこから先が、見る側の仕事です。
「AIが伸びる」の先に、何が変わるのか
ウェビナーでは、一つの例としてAIを取り上げました。
「AIがさらに普及する」「AIエージェントが増える」というだけなら、技術トレンドの話です。
しかし、AIが人に代わって情報を探し、商品を比較し、サービスを選ぶようになったらどうでしょうか。企業がこれまで「顧客」と考えていた存在そのものが、変わり始めるかもしれません。
QUESTION
あなたの顧客は、5年後もあなたを選んでいるでしょうか?
人が検索して企業のウェブサイトへ来ることを前提にしていたマーケティング。
人が比較して商品を選ぶことを前提にしていたブランド。
人が意思決定することを前提に設計されてきたサービス。
選ぶ主体が変われば、これまで当然だと思っていた事業の仕組みも変わる可能性があります。
VISIONGRAPHが見ているのは、「AI」というキーワードそのものよりも、AIによって何が当たり前ではなくなり始めているかです。そう考えると、最先端事例は「真似する対象」ではなく、自社がまだ考えたことのないことを考えるきっかけになります。
今年のキーワードより、変化の時間軸を見る
海外視察のレポートでは、「今年注目された10のキーワード」のような整理を求められることがあります。
もちろん、それも現状を知るには役立ちます。
しかし毎年、今年はAI、翌年は別の技術、その次はまた別のテーマ、と点だけを追っていると、企業や社会がどの方向へ変化しているのかは見えにくくなります。
VISIONGRAPHでは、2012年からSXSWを継続して観測してきたことで、そこで出会った企業やテーマが、その後どう変化していったのかも追えるようになってきました。
ウェビナーではAirbnbやICONなどを例に、ある時点のプロダクトだけを見るのではなく、企業が実現しようとしてきた未来像と、その途中で事業がどう変化したかを見るという話をしました。
最初から現在の形があったわけではありません。
事業を進める途中で新しい課題にぶつかり、そのたびにサービスの意味や対象を広げていく。
その変化を時間軸で見ると、「成功企業の事例」だけでは見えなかったものが見えてきます。未来を見るとは、完成した未来を当てることではなく、変化している途中を観察することなのかもしれません。
MUSUBIが新規事業の現場で感じている変化
ここからは、MUSUBIの田中さんから、国内の新規事業・インキュベーションの現場について話していただきました。
田中さんはDeNAでEコマースやモビリティなどの新規事業に関わり、その後ビズリーチでプロダクトやデザイン、組織横断の事業づくりに携わってきました。
現在MUSUBIでは、企業とのパートナーシップ、教育、デザイン、AIなどを組み合わせながら事業を展開しています。
田中さんが現在の新規事業の現場から挙げた変化の一つが、「製品からソリューションへ」です。
製品をつくることから、課題を解くことへ
ここ10年ほど、新規事業ではSaaSのような、標準化したプロダクトを開発し、多くの顧客へ販売するモデルが注目されてきました。
しかし田中さんは、そうしたモデルだけでは対応しづらい領域が増えているといいます。
企業が抱える課題は、必ずしも一つのプロダクトだけで解決できるとは限りません。
既存の製品とデータを組み合わせる。そこへ人による支援を加える。顧客ごとの事情に合わせて使い方を変える。
「何を売るか」から、「どの問題を解くのか」へ。
AIによって企業自身でも小さなソフトウェアをつくりやすくなれば、ソフトウェアそのものを提供するだけではない価値も、さらに重要になるかもしれません。
ゼロからつくるより、自社がすでに持っているものを見る
もう一つの変化が、既存アセットの活用です。
新規事業というと、「今の会社にはない新しいものをゼロからつくる」というイメージがあります。
しかし大企業には、スタートアップが最初から持つことのできないものがたくさんあります。
顧客との長い関係。
現場で蓄積されたデータ。
専門人材。
販売チャネル。
ブランドへの信頼。
長年の経験から得た業界知識。
田中さんは、こうした既存の強みと、AIやIT、あるいはまったく別の領域を掛け合わせることで、新しい価値が生まれるケースが増えていると話しました。
これは、SXSWを見ときにVISIONGRAPHが重視している「異なる領域の交差」とも重なります。
新しいものを探しに外へ行くことと、自分たちがすでに持っているものを見直すこと。新規事業には、その両方が必要になります。
「大人のインキュベーション」が増えている
田中さんが使った言葉で印象的だったのが、「大人のインキュベーション」です。
スタートアップや新規事業というと、若い起業家がまったく新しい市場へ挑戦するイメージを持つ人も多いかもしれません。
しかし最近は、30代、40代、50代と、長く一つの産業や企業で経験を積んできた人が、その経験を使って新しい事業を始めるケースも増えているといいます。
建設、物流、製造、医療、エネルギー。こうした産業には、外から見ただけでは分からない複雑さがあります。
なぜこの業務が残っているのか。
どこを変えると別の部署に影響するのか。
誰の合意がなければ前へ進まないのか。
どこまで変えると現場が回らなくなるのか。
一見「古い仕組み」に見えるものにも、それが存在する理由があります。
そうしたドメイン知識そのものが、新規事業をつくるための資産になるというのが田中さんの見方です。若さや新しさだけが、新規事業の条件ではありません。長くその業界にいたからこそ見える問題もあります。
新規事業には「複雑さを泳ぐ力」がいる
一方で、既存企業のアセットを使うということは、既存企業の複雑さとも向き合うということです。
既存の組織。顧客。取引先。制度。予算。意思決定のプロセス。
ゼロから会社をつくるのとは違い、すでに存在する多くの条件の中で事業を動かさなければなりません。
MUSUBI INSIGHT
複雑さを泳ぐ
新規事業には、優れたアイデアだけでなく、現場の話を聞く。異なる立場の人と合意をつくる。小さく試す。結果を見ながら修正する。組織の中で仲間を増やす。といった力も必要になります。
事業アイデアを出す力と、事業を現実の組織の中で成立させる力は、必ずしも同じではありません。
このあたりは、ウェビナーでは実際の企業事例を交えながら、さらに具体的に紹介していただきました。今回は参加者限定で共有した内容も含まれるため、この記事では詳細を割愛します。
一社だけでは解けない課題が増えている
田中さんが挙げたもう一つの傾向が、業界や組織をまたいだアライアンスです。
自社の技術だけで新しいプロダクトをつくる。そこからさらに、自社とは違う資産を持つ企業や人と組むことで、初めて成立する事業をつくるという方向へ、新規事業の考え方が広がっています。
企業とスタートアップ。産業とテクノロジー。行政と民間企業。研究者と事業会社。
単独では解けない問題だからこそ、違うものを持つ人たちが一緒に取り組む。
SXSWでも、異なる領域の人々が一つのテーマについて議論したり、それぞれが持つ未来仮説を持ち込んだりする場面が数多くあります。VISIONGRAPHがSXSWを長く観測している理由の一つも、こうした交差点にまだ名前のない変化が現れるからです。
SXSWへ行くなら、「誰と見るか」も設計する
ウェビナーのディスカッションでは、ここから「誰とSXSWへ行くか」という話にも広がりました。
経営層と若手。事業担当と技術者。SXSW経験者と初参加者。異なる部署のメンバー。
同じものを見ても、専門性や経験が違えば、気づくことは変わります。
100人がSXSWへ行けば、100通りのSXSWがある。
だからこそ、一人で大量の情報を持ち帰るだけでなく、違う見方を持つ人同士で同じ現場を体験することにも意味があります。
「私はここが気になった」「私はまったく違うものを見ていた」という違いから、社内では普段起こりにくい会話が始まります。
海外視察を一人の担当者による情報収集で終わらせるのか。あるいは、複数の人が同じ変化を体験し、帰国後も「あの時見たもの」を共通言語として話せる状態をつくるのか。同じSXSW視察でも、設計によって持ち帰れるものは変わります。
名刺交換より、「なぜ自分はこれをやっているのか」を話す
ネットワーキングについて、VISIONGRAPHとMUSUBIの間で共通して出てきたのが共感でした。
気になる人へ声をかけて、名刺を交換する。それだけでは、関係がその場で終わってしまうこともあります。
田中さんは、自分が本当に面白いと思ったことや感動したことから話し始め、そこに自分自身の経験を重ねることで、より深い関係ができるのではないかと話しました。
宮川がSXSW参加者へ以前から勧めているのも、現地へ行く前に「自分の原点となるストーリー」を持っておくことです。
なぜ自分はこの仕事をしているのか。
何に困った経験があったのか。
なぜそれを変えたいと思ったのか。
SXSWのPitchでも、強い事業の背景には、その人自身の経験や問題意識が語られることがあります。
事業の説明だけではなく、なぜ自分たちがその未来をつくりたいのか。それが人と人をつなぎ、時には新しいアライアンスの入口になります。
最先端事例を、自社の新規事業へどうつなげるか
今回のウェビナーでは、VISIONGRAPHからは世界の変化をどう観測するか、MUSUBIからは企業の中で新しい事業をどう動かしていくか、それぞれの現場から話しました。
外で起きている変化を見ること。
自社がすでに持っているものを見ること。
その二つを行き来すると、それまで別々に見えていたものの間に接点が現れることがあります。
ただし、同じ事例を見ても、企業によって意味は違います。
どの変化を重要だと捉えるのか。
自社のどのアセットと組み合わせるのか。
どんな人と一緒に考えるのか。
今回のウェビナーでは、その入口をいくつか紹介しました。
具体的な事例や、それぞれの企業でどのように考えるかについては、一社ごとに状況が異なります。
SXSWを見る場合も同じです。
何を見に行くのか。
そして、見たものを自社へどう持ち帰るのか。
そこまで考えると、「海外の最先端を見てきた」で終わらない視察の形が見えてきます。
NEXT STEP
社内インキュベーションについて、もう少し話を聞いてみたい方へ
VISIONGRAPHとMUSUBIでは、日本からのSXSW視察を、社内の新規事業・インキュベーションにつなげるためのサポートを行っています。
「自社の場合は、どんなテーマでSXSWを見るとよいのか」
「視察を社内の新規事業につなげたい」
「今回のウェビナーの内容を、もう少し詳しく聞いてみたい」
といった段階でも構いません。現在、無料相談会を実施しています。
SXSW Japan主催 Webinar
「最先端事例からみる新規事業のつくり方」
2026年9月開催



