海外視察では何を見る?新規事業につながる「変化の兆し」5つの観察ポイント

SXSW現地視察、変化の兆し5選

FIELD GUIDE|OVERSEAS INSPECTION

海外視察で見るべきなのは、成功している企業や最新技術だけではありません。

新規事業のための視察なら、現地で探したいのは、これまでと違う人の行動、まだ解決されていない不便、複数の領域で同時に起きている変化、そして「当たり前」が崩れ始めている場所です。

完成した成功事例は、すでに多くの人が知っています。もちろん、それを見ることにも意味はあります。ただ、わざわざ海外まで行くのであれば、日本に戻って検索しても手に入る情報だけではもったいない。

現地へ行く価値のひとつは、まだ市場として名前がついていない変化を、自分の目で見つけられることにあります。

私たちSXSW Japanは、2012年から米国オースティンで開催されるSXSWを継続して観測してきました。テクノロジーだけではなく、映画、音楽、教育、デザイン、都市、食、ヘルスケアなど、さまざまな領域が同時に交差する場所だからこそ見えてくる変化があります。

この記事では、その経験から、海外視察で意識しておきたい5つの観察ポイントを紹介します。

成功事例だけを見て帰ると、なぜ新規事業につながりにくいのか

海外視察のプログラムでは、有名企業のオフィス、注目のスタートアップ、人気店舗、大規模な展示会などが訪問先として選ばれることがよくあります。

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。

ただ、すでに大きく成功している企業や完成度の高いサービスを見ると、

「すごかった」

「日本でも導入できそう」

「自社でも似たことができないか」

という感想で終わりやすくなります。

けれども、その企業が成功した条件と、自社を取り巻く条件は同じではありません。

さらに、新規事業を考えるうえで本当に知りたいのは、すでに成立した市場だけではなく、これから市場になりそうな変化ではないでしょうか。

そのためには、「何が成功しているか」だけではなく、現地で起きている小さな変化の方へ目を向ける必要があります。

海外視察で見るポイント1|「完成したもの」だけを見ない

視察では、完成度の高いサービスや人気企業に目が向きがちです。

けれども、新しい市場が生まれる初期には、必ずしもすべてがきれいに出来上がっているわけではありません。

むしろ、

  • 使い方がまだぎこちない
  • 値段が高い
  • 一部の人しか使っていない
  • 制度が追いついていない
  • 呼び方すら定まっていない
  • いくつものサービスが同じ問題を違う方法で解こうとしている

といった状態で現れることがあります。

「まだ普及していないから重要ではない」と切り捨てるのではなく、なぜ今、このようなものが現れ始めているのかを考えてみる。

海外視察では、完成した答えだけではなく、まだ答えになっていないものにも目を向ける価値があります。

海外視察で見るポイント2|製品より「人の行動」を見る

新しいデバイスやサービスを見ると、スペックや価格、技術そのものに注目しがちです。

そこで一度、視点を人間側へ移してみます。

その技術が登場したことで、人は以前とは違う何を始めているでしょうか。

SXSWの歴史を振り返っても、後から重要だったと分かる変化は、サービスそのものだけではありませんでした。

Twitterが広がった時期には、「今ここで起きていること」をリアルタイムで共有する行動が広がりました。

Foursquareでは、人が自分のいる場所をデジタル上で共有する行動が生まれました。

Airbnbは、宿泊施設というものを「ホテル事業者が提供するもの」と考える前提そのものを揺らしました。

個々のサービスはその後、成長したり、形を変えたり、姿を消したりします。

しかし、そこで生まれた新しい行動は別のサービスへ受け継がれることがあります。

WHAT TO OBSERVE

この製品は何ができるのか?

↓
これによって、人は何をするようになったのか?

まで見ておくと、その先の変化が捉えやすくなります。

海外視察で見るポイント3|「まだ面倒なこと」を見る

海外へ行くと、新しく便利になったものに目を奪われます。

けれど、新規事業のヒントという意味では、まだ便利になっていない場所にも価値があります。

たとえば、

  • 何度も同じ情報を入力している
  • 人が間に入らなければ処理できない
  • 予約して長く待つ必要がある
  • 複数のアプリを行き来している
  • 専門家に毎回確認しなければ進まない
  • デジタル上で完結せず、紙や対面へ戻っている

といったことです。

そこで暮らす人にとっては「そういうものだから」と受け入れられていることでも、技術や制度、生活習慣が変われば、大きな事業機会になる可能性があります。

重要なのは、すぐに「この不便を解決するサービスを作ろう」と考えることではありません。

なぜ、この面倒がまだ残っているのか。

と考える。

技術的に難しいのか。制度が障壁なのか。人々が変化を望んでいないのか。複数のプレイヤーの利害が絡んでいるのか。

不便そのものより、その不便を成立させている背景を見ることで、見えてくるものが変わります。

海外視察で見るポイント4|別々の領域で「同じ変化」が起きていないかを見る

SXSWを観測していて特に面白いのは、一つの業界だけを見ていると気づきにくい変化が見えてくることです。

AIについて考える場合でも、AI関連のセッションだけを見るとは限りません。

金融では、人が行っていた判断をAIへ委ねる話が出ている。

広告でも、AIが自律的にキャンペーンを動かす話が出ている。

ソフトウェアでも、人が一つずつ操作するのではなく、エージェントへ仕事そのものを任せる話が増えている。

ロボティクスでは、AIが画面の中だけでなく、現実世界で行動し始めている。

一つひとつを別々の技術トレンドとして見ることもできます。

しかし、複数の領域で似た変化が同時に起きているなら、

FROM SIGNALS TO CHANGE

人間が逐一操作することを前提にしてきた社会が変わり始めている

と、もう一段大きな変化として見ることもできます。

海外視察では、自分の業界だけを見るのではなく、一見関係のなさそうな場所で同じ現象が繰り返されていないかを探してみると、新しい視点が得られます。

SXSW JAPAN’S NOTE

SXSWを長く見ていると、その年の「話題のテーマ」以上に気になるのが、複数の会場や異なる業界で、同じ言葉や行動が繰り返し現れる瞬間です。

一つなら偶然かもしれない。でも教育、ビジネス、エンターテインメントなど別々の場所で同じ変化が現れると、それは一業界の流行ではなく、社会の前提そのものが動き始めている可能性があります。

海外視察で見るポイント5|「何が当たり前ではなくなっているか」を見る

最後は、少し視点を引いてみます。

新しい技術やサービスに出会ったとき、

これは何ができるのか?

これが普通になったら、今までの何が当たり前ではなくなるのか?

と考えてみます。

たとえばAIエージェントが普及すると、
「ソフトウェアは人間が操作するもの」
という前提が変わるかもしれません。

Airbnbのようなサービスが広がったときには、
「宿泊施設はホテル事業者が提供するもの」
という前提が揺らぎました。

音楽ストリーミングが定着したことで、
「音楽は作品を購入して所有するもの」
という感覚も大きく変化しました。

新しいものを見つけるだけなら、情報収集でもできます。

海外へ実際に足を運ぶからこそ、その場所で暮らす人たちの行動や会話、サービスの使われ方から、

すでに何が「普通ではなくなり始めているのか」

を見ることができます。

では、視察で見つけた「兆し」をどう新規事業にする?

ここまで紹介した5つの視点を使うと、海外視察で拾える情報は増えるはずです。

ただし、ここで一つ注意があります。

現地で面白いものを見つけたからといって、そのまま事業アイデアにする必要はありません。

「海外で流行っているから日本でもやろう」
という発想だけでは、その変化が起きている理由や、自社との関係を見落としてしまいます。

重要なのは、

なぜこの変化が起きているのか。

その背景では、どんな前提が変わっているのか。

同じ変化は別の領域でも起きているのか。

そして、自社の顧客や事業環境にも、その変化は及ぶのか。

と考えることです。

観測することと、事業をつくることの間には、もう一段階あります。

現地で集めた無数の情報から、何を重要な変化として選び、どう意味を与え、自社にとっての問いへ変えるのか。

ここから先は、企業や事業によって答えが大きく異なります。

まだ「どこへ視察に行くか」が決まっていない場合

今回の記事では、海外へ行ったあとに「何を見るか」を中心に紹介しました。

一方で、
「企業訪問と展示会のどちらがいいのか」
「カンファレンスへ行く意味はあるのか」
「自社の目的なら、どのタイプの視察が向いているのか」
という段階から考えたい場合もあると思います。

海外視察の目的別に、企業訪問・展示会・カンファレンスの違いを整理した記事もあります。

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新規事業担当者のための海外視察先の選び方

企業訪問・展示会・カンファレンスの違いと、目的に応じた視察先の考え方を紹介しています。

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自社の場合、何を観測すればいい?

同じ場所へ視察に行っても、自動車会社と金融機関、エンターテインメント企業では、見るべき変化は同じではありません。

新しい技術を探しているのか。
新しい顧客行動を探しているのか。
今後変わりそうな市場の前提を探しているのか。
そもそも、まだ「何を探すべきなのか」が決まっていない場合もあります。

そして実際には、面白いものを見つけること以上に、そこから自社にとって意味のある問いをつくることが難しいものです。

VISIONGRAPH × MUSUBIでは、未来の変化を観測し、その中から自社に関係するテーマを見つけ、新規事業の問いや仮説へつなげていくプロジェクトを行っています。

海外視察やSXSWを検討しているものの、
「どこを見るべきなのか」
「何を持ち帰ればいいのか」
「そもそも、次の事業テーマをどこから探せばいいのか」
という段階にいる場合は、こちらもご覧ください。

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まだ「何を探すべきか」が決まっていない方へ

VISIONGRAPH × MUSUBIでは、未来の変化から自社に関係するテーマを探し、新規事業の問いや仮説へつなげていく支援を行っています。

「どこを見るべきなのか」
「何を持ち帰ればいいのか」
「次の事業テーマをどこから探せばいいのか」
という段階からご覧いただけます。


文:SXSW Japan
2012年からのSXSW現地観測をもとに構成しています。