FIELD GUIDE|OVERSEAS INSPECTION
海外視察では、何を見るかを参加前に決めておくと、現地で集める情報が変わります。
新規事業のために海外へ行くなら、プロダクトやテクノロジー、スタートアップを見ることは基本です。ただし、「何があったか」を記録するだけでは、自社で次に何を検討すればよいのかまでつながらないことがあります。
プロダクトそのものに加えて、誰が使っているのか、つくり手は何を解決しようとしているのか、どんな企業やスタートアップが参入しているのか、別の業界ではどう使われているのかまで見ておくと、帰国後に比較できる材料が増えます。
私たちSXSW Japanは、2012年から米国AustinでSXSWを継続して見てきました。カンファレンス、スタートアップ、ブランドアクティベーション(消費者にリアルな体験を提供し、購買・SNS拡散・ファン化を促すマーケティング手法)、Film & TV、Musicなど異なる領域が同じ街で動くSXSWでは、一つのテーマを複数の業界から比較できます。
この記事では、新規事業担当者が海外視察で使いやすい5つの観察ポイントに整理します。
成功事例を見るときは、「何をやっているか」だけで終わらせない
海外視察では、有名企業のオフィス、注目のスタートアップ、人気店舗、大規模な展示会などが訪問先に選ばれます。すでに成果を出している企業を見ることは、競合調査やベンチマークとして有効です。
そのとき、「自社でも同じことができるか」だけで考えると、その企業が成立している条件を見落とすことがあります。
誰が使っているのか。
どんな問題を解決しているのか。
なぜ、この市場や地域で成立しているのか。
周囲には、どんな企業やパートナーがいるのか。
ここまで確認すると、成功事例をそのまま真似するのではなく、自社と比較する材料として使いやすくなります。
海外視察で見るポイント1|プロダクト・テクノロジーを見る
まずは、現地にあるプロダクトやテクノロジーそのものを確認します。
見る項目は、たとえば次のようなものです。
- 何ができるのか
- 誰を対象にしているのか
- 価格はいくらか
- プロトタイプなのか、すでに販売されているのか
- どこまで実際の業務や生活で使われているのか
- 既存のプロダクトと何が違うのか
展示会やデモでは、資料を読むだけでなく、可能なら実際に触ります。操作に時間がかかる、説明員の補助が必要、想定より速い、思ったより大きいといったことも現地で得られる情報です。
WHAT TO CHECK
資料に書かれている機能と、自分で使ったときの体験を分けて記録する。
海外視察で見るポイント2|ユーザーやオーディエンスの行動・反応を見る
同じプロダクトでも、提供する企業の説明と、実際に使っている人の反応は同じとは限りません。
展示、店舗、街、イベント会場では、ユーザーや来場者も観察対象になります。
- どんな人が使っているか
- 迷わず使えているか
- どこで立ち止まっているか
- 何に反応しているか
- 行列ができているか
- 写真を撮っているか、誰かに共有しているか
- 一度試すだけなのか、繰り返し使っているのか
マーケティングやブランド担当であれば、ブランドアクティベーションの装飾だけでなく、オーディエンスがどこで止まり、何を体験し、何を持ち帰っているかまで見ると参考になります。
PRODUCT + AUDIENCE
このプロダクトは何ができるのか?
ユーザーやオーディエンスは、それをどう使い、どう反応しているのか?
海外視察で見るポイント3|つくり手が何を解決しようとしているかを見る
新しいプロダクトやスタートアップを見つけたら、「何ができるか」に加えて、なぜそれを作ったのかを聞いてみます。
スタートアップの創業者や開発者に直接話を聞ける場合は、次のような内容を確認できます。
- どんな不便や課題から開発を始めたのか
- 既存の方法では何が足りなかったのか
- 最初の顧客は誰だったのか
- 現在、顧客が最も評価している部分はどこか
- 導入を妨げているものは何か
- 技術、制度、価格、商習慣のどこに課題が残っているか
まだ使いにくい部分や、手作業が残っている部分も情報です。単純に「不便だから事業機会」と判断するのではなく、なぜそれがまだ解消されていないのかまで聞いておくと、自社で同じテーマを考える際の材料になります。
ASK THE BUILDER
「何を作ったか」と同時に、「なぜそれを作る必要があったのか」を聞く。
海外視察で見るポイント4|どんな企業・スタートアップ・投資家が参入しているかを見る
新しい市場やテクノロジーを見るときは、個別企業だけでなく、その周囲にどんなプレイヤーがいるかも確認します。
- スタートアップだけが参入しているのか
- 既存の大企業もプロダクトやサービスを出し始めているのか
- ベンチャーキャピタルやアクセラレーターが投資・支援対象として扱っているか
- 大学や研究機関が関わっているか
- 政府や自治体が制度・調達側から関わっているか
- これまで関係のなかった異業種が参入しているか
たとえば同じテクノロジーでも、研究段階の企業しかいない分野と、大企業、スタートアップ、投資家、政府・自治体が同時に動いている分野では、事業環境が異なります。
「この会社が面白い」で終わらず、周辺のプレイヤーまで並べてみると、その市場がどの段階にあるのかを考える材料になります。
MAP THE PLAYERS
企業だけを見るのではなく、スタートアップ、大企業、投資家、研究機関、政府・自治体まで周囲のプレイヤーを確認する。
海外視察で見るポイント5|別業界ではどう使われているかを見る
自社の業界だけを見ていると、既存の競合と似た使い方ばかりを見ることがあります。
そこで、同じテクノロジーやビジネスモデルが別の業界でどのように使われているかも比較します。
たとえばAIをテーマにしていても、ソフトウェア企業だけを見る必要はありません。小売では顧客接点、マーケティングではキャンペーン運用、ヘルスケアでは診療や患者体験、教育では学習支援、ロボティクスでは現実空間での作業へ使われています。
別業界を見る目的は、無理に異業種の事例を自社へ持ち込むことではありません。同じテクノロジーが、異なる顧客、業務、規制、空間でどう使われているかを比較することです。
CROSSOVER
自分のテーマから見始めて、隣の業界、その隣の業界へ範囲を広げる。別業界の方法や事例が、自社の次のベンチマークになることがあります。
5つを比較すると、「変化の兆し」として見えてくるものがある
一つの新製品を見つけただけで、将来の市場が分かるわけではありません。
一方で、現地で観察したものを並べてみると、複数の具体的な動きが重なることがあります。
- 複数のスタートアップが同じ課題を解こうとしている
- 大企業も同じ領域へ参入している
- ユーザーやオーディエンスの使い方・反応にも変化がある
- 別業界でも似たテクノロジーやビジネスモデルが使われている
- 投資や制度の側でも動きが始まっている
こうしたものが重なったとき、個別企業の事例を超えて、「この領域では何か条件が変わっているのではないか」と考えることができます。
SXSW Japanでは、こうした複数の観察を比較しながら、その後の市場や社会へ影響しそうな動きを「変化の兆し」として捉えています。兆しは最初から探す対象というより、具体的な事例や行動を重ねて見た後の解釈です。
OBSERVE → COMPARE
プロダクト、オーディエンス、課題、プレイヤー、別業界での使われ方を並べてから、その間に共通する動きを考える。
視察で見たものを、そのまま新規事業アイデアにしない
海外で面白いプロダクトやビジネスモデルを見つけると、「日本でもやれないか」と考えたくなります。
しかし、海外で成立している理由と、日本や自社で成立する条件は同じとは限りません。
帰国後は、少なくとも次の情報をセットで整理します。
- どんなプロダクト・テクノロジーだったか
- 誰が使い、どう反応していたか
- どんな課題を解決していたか
- どんな企業・スタートアップ・投資家などが動いていたか
- 別業界ではどのように使われていたか
- 自社の顧客、テクノロジー、事業環境と、どこが同じでどこが違うか
ここまで整理してから、自社で追加リサーチするテーマ、話を聞くパートナー候補、PoC候補、新規事業として検討するテーマを選びます。
まだ「どこへ視察に行くか」が決まっていない場合
この記事では、海外へ行ったあとに「何を見るか」を中心に紹介しました。
まだ視察先そのものを決めていない場合は、企業訪問、展示会、カンファレンスで現地でできることが異なります。
プロダクトを比較したいのか、スタートアップや創業者に会いたいのか、自社のテーマを複数業界から見たいのか。まず「現地で何を確かめたいか」から視察先を選ぶ方法を、別の記事で整理しています。
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IF YOU ARE CONSIDERING SXSW
SXSWで、自分の仕事なら何を見る?
スタートアップ、テクノロジー、ブランドアクティベーション、カスタマーエクスペリエンス、クリエイター、オーディエンスなど、仕事別にSXSWで見る対象を整理しています。
自社のテーマに合わせて、見る対象を設計する場合
同じSXSWや海外カンファレンスへ参加しても、企業によって見る対象は変わります。
新しいテクノロジーを比較したい企業もあれば、カスタマーエクスペリエンス、海外市場のオーディエンス、スタートアップやパートナー、AIを前提にした組織設計などを重点的に見たい企業もあります。
VISIONGRAPHでは、企業ごとのテーマに合わせた事前リサーチ、参加前の勉強会、現地で見る対象の設計、帰国後の分析やワークショップまで支援しています。
NEXT STEP
SXSW・海外視察を、自社のテーマから設計する
「どのプログラムを見るか」「誰に会うか」「何を持ち帰るか」まで企業ごとに設計したい場合は、VISIONGRAPHのSXSW活用支援をご覧ください。
現地で見つけた事例から新規事業テーマを検討する方法については、最先端事例を「見るだけ」で終わらせない、新規事業のつくり方でも紹介しています。
文:SXSW Japan
2012年からのSXSW現地観測をもとに、海外視察で確認しやすい対象と行動に整理しています。



