SXSWの展示ブースで、人は何に足を止めた?|TBS・宇宙スタートアップ・カシオの2025年事例

SXSW JAPAN CASE STUDY|EXHIBITION 2025

2025年のSXSW Expoに出展したTBSテレビ、将来宇宙輸送システム、カシオ計算機。3社の展示はまったく違いました。それでも話を聞いていると、人が足を止める瞬間には、それぞれ少し面白い理由がありました。

ABOUT THIS CASE

この記事は、2025年4月に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催したSXSW 2025報告会「Road to Austin」の出展者パネルをもとに再編集しています。

登壇したのは、TBSテレビの永山知実さん、将来宇宙輸送システム株式会社の増澤諒さん、カシオ計算機株式会社の川田遼平さん。モデレーターはSXSW Japanの宮川麻衣子です。

業種も、出展経験も、展示したものも違う3社が、Austinの会場でどんな反応に出会ったのかを振り返ります。

SXSW 2025出展者パネル

SXSW 2025報告会「Road to Austin」出展者パネル。

SXSWのExpoを歩いていると、ブースの前で起きていることはかなり違います。

モニターを見ている人。

VRを被っている人。

プロトタイプを触っている人。

気づくと小さな人だかりができているブースもあります。

2025年に出展した3社の話を聞いていると、「展示物が何だったか」だけでは、その違いを説明しきれません。

むしろ、その前で人が何をしていたのかを見ると、それぞれの展示の特徴がよく見えてきます。

TBSテレビ|テレビのコンテンツを、まず身体で体験してもらう

TBSテレビは2025年で3年目のSXSW出展でした。

この年のブースには、『SASUKE(Ninja Warrior)』を競技者の視点で体験するVR、『地縛少年花子くん』と連動したAR、映像制作関係者向けの「ライブマルチスタジオ」のデモが並びました。

同じTBSのブースでも、入口は一つではありません。

SASUKEを知っている人なら、VRを被ってみる。

アニメのファンなら、ARを試してみる。

制作側の人なら、映像技術のデモを見る。

永山さんが話していたのは、その「入口」の先に体験を置くことでした。

「展示は“入口”。その先の体験まで設計するということが大事だと思います」

— TBSテレビ 永山知実さん

画面の中にあるコンテンツを紹介するだけでなく、いったん身体を使う体験に変えてみる。

そうすると、参加者はブースの外から眺める人ではなく、その場で体験している人になります。

説明を読む前に、まず何かが起きる。

TBSの事例を聞いていて印象に残ったのは、その順番でした。

TBS|EXPERIENCE FIRST

説明を読むより先に、
VRを被る、ARを試す、手を動かす。

将来宇宙輸送システム|専門外の人が、意外なところから入ってきた

将来宇宙輸送システムにとって、2025年は初めてのSXSW出展でした。

宇宙技術を扱う会社なので、増澤さん自身も当初は「技術を売り込む場」というイメージを持っていたそうです。

ところが、実際の会場で反応したのは、宇宙業界の人だけではありませんでした。

「正直、技術を売り込む場だと思っていたんです。でも、SXSWでは“コンセプトが面白いかどうか”が反応を左右する。ミュージシャンやアーティストが『それ、クールだね!』と寄ってきてくれるのが新鮮でした」

— 将来宇宙輸送システム株式会社 増澤諒さん

人工衛星のコンセプトモデルを見て、ミュージシャンやアーティストが足を止める。

専門展示会ではあまり起きなさそうな組み合わせです。

技術の細かな性能を知っているから反応したというより、「それによって何ができそうか」という世界観から興味を持っている。

増澤さんの話からは、そんな会話の始まり方が見えてきます。

セッションからブースへ来る人もいた

この年、将来宇宙輸送システムは展示だけでなく、ブランド戦略に関するセッションにも登壇しました。

そこで会社を知った人が、その後ブースまで足を運ぶ。

セッションでは背景や考え方を知り、Expoでは実物を見る。

増澤さんは、展示とセッションを組み合わせることで「ストーリーで人を引き込む力」が高まったと振り返っています。

SXSWには同じ会社が複数の場所へ現れることがあります。

一度見た名前を別の場所でまた見つける。その重なり方も、人がブースへ来るきっかけになっていました。

SPACE|AN UNEXPECTED AUDIENCE

宇宙技術を見せていたら、
ミュージシャンやアーティストが話しかけてきた。

カシオ|誰かが演奏すると、次の人が近づいてきた

カシオ計算機の新規事業開発チームが展示したのは、スマートフォンアプリと電子楽器のプロトタイプでした。

ブースには、その場で実際に演奏できる環境が用意されていました。

参加者が楽器に触る。

音が鳴る。

その様子を見た別の人が足を止める。

さらに誰かが演奏に加わる。

結果として、ブースが小さなライブ会場のようになっていったそうです。

「SXSWでは、“人が集まり、賑わっているブース”に人がさらに集まってくるんです。“触ってみたくなる展示”が最強だと、改めて実感しました」

— カシオ計算機株式会社 川田遼平さん

ここでは、最初に用意された展示だけがブースをつくっていたわけではありません。

実際に触った人の演奏が、その次の人にとっての展示になっています。

SXSWにはMusic Festivalへ出演するアーティストも歩いています。

そうした人たちが楽器を触り、音を出すことで、予定していなかった使われ方や反応も生まれました。

BBCや現地メディアの取材も入り、川田さんはこの出展を「動き出しの第一歩」と振り返っています。

CASIO|PEOPLE ATTRACT PEOPLE

誰かが使っている姿そのものが、
次の人にとって「ちょっと触ってみたい」理由になる。

3つのブースでは、「人が参加したあと」に展示が変わっていた

TBS、将来宇宙輸送システム、カシオ。

扱っているものを並べると、ほとんど共通点がありません。

テレビコンテンツ。

宇宙技術。

楽器とアプリ。

それでも、3社の話を続けて聞いていると、一つ似ているところがありました。

ブースへ来た人が何かをしたあと、その場の意味が少し変わっています。

THREE DIFFERENT SCENES

TBS
VRやARを体験したことで、コンテンツを見る側から体験する側へ変わる。

将来宇宙輸送システム
専門外の人がコンセプトへ反応し、技術に新しい会話が加わる。

カシオ
来場者が演奏し始めたことで、人が人を呼ぶ小さなライブ空間へ変わる。

展示を準備するときには、当然、何を置くかを考えます。

でも現地へ持っていったあと、その展示を完成させるのは出展者だけではありません。

誰が触るか。

何に反応するか。

誰かが使っている姿を、別の人がどう見るか。

その場で起きたことによって、ブースは少しずつ形を変えていきます。

海外へ持っていくと、想定していなかった反応も返ってくる

3社の話でもう一つ面白かったのは、現地で初めてわかったことがあった点です。

宇宙技術にミュージシャンが反応する。

楽器のプロトタイプが、その場でライブのように使われる。

日本で準備している段階では、すべてを予想できません。

特にSXSWには、Technologyだけでなく、Music、Film & TV、Media、Creative Industriesなど、違う関心を持つ人が同じ街にいます。

普段とは違う人の前へ置いたときに、プロダクトやコンセプトの別の入口が見つかることがあります。

海外展示を振り返るとき、商談数や来場者数とは別に、そんな「予想外の反応」を残しておくと、次の開発や伝え方につながることがあります。

SXSW JAPAN NOTE

展示したもの以上に、
そこで人が何をしたかを覚えておく。

2025年の出展者パネルを聞きながら、私は3社の「ブースの作り方」以上に、そこで起きた場面が印象に残っていました。

VRを被る人。

宇宙のコンセプトを見て「クールだ」と話しかけてくるアーティスト。

楽器を演奏し始め、それを見て集まってくる人たち。

展示ブースは、静止したショーケースというより、その場にいる人によって少しずつ出来上がっていく場所にも見えます。

次にSXSWのExpoを歩くときは、展示物だけでなく、その前で人が何をしているかを見てみると、また違う景色が見えてくると思います。