PERSPECTIVE|MAIKO MIYAGAWA

宮川 麻衣子|Maiko Miyagawa
Director of SXSW Japan / Futurist
2024年、私はこのサイトに「グリーンテック」についての記事を書きました。
Solugen、NotCo、Nextron、Pascal。環境負荷を減らす新しい技術やビジネスを紹介し、それらが普及した未来の日常まで想像していました。
2年後のいま、この記事を読み返していて、紹介した技術以上に気になったことがあります。
「グリーンテック」という括り方そのものが、少し古く見えるのです。
ABOUT THIS ARTICLE
この記事は、2024年9月に公開した「未来を予報する10日間。SXSWグリーンテックが変える私たちの『一歩先の日常』」をもとに、2026年9月に再編集しています。
元記事で紹介した企業や未来像は、当時どのように環境技術を見ていたかを示す記録として残しました。そのうえで、2025年から2027年にかけてSXSWで気候・エネルギーがどう分類されてきたかを加え、「グリーンテック」という領域自体の変化を読み直しています。
01|2024年、環境問題には「グリーンテック」という名前がついていた
2024年にこの記事を書いたとき、私が見ていたのは、気候変動という大きな課題に対して、新しい技術やビジネスで解決策をつくろうとする企業でした。
元記事では、その象徴として4社を取り上げています。
FROM 2024|当時注目していた4つのシグナル
Solugen
バイオベースの製造プロセスによって、化学産業の環境負荷を減らそうとしていた企業。
NotCo
AIを使って植物由来の代替食品を開発し、食と環境負荷の関係を変えようとしていた企業。
Nextron
再生可能エネルギーへのアクセスをサービスとして提供し、エネルギー利用のあり方を変えようとしていた企業。
Pascal
固体冷媒技術によって、空調のエネルギー消費や環境負荷を減らそうとしていた企業。
化学、食品、エネルギー、空調。業界はまったく違います。
それでも当時は、「環境問題をテクノロジーで解決する企業」として、一つのグリーンテックという箱に入れて見ることができました。
02|2025年、「Climate」と「Energy」が並んだ
SXSWのプログラム分類を追っていくと、この領域の見え方が少しずつ変わっていることが分かります。
SXSW 2025のConferenceには、「Climate & Sustainability」と「Energy」がそれぞれ独立したTrackとして設けられていました。
Climate & Sustainabilityでは、カーボン回収、廃棄物、水、気候移住、建築、農業、生物多様性などが扱われ、Energyでは、電力システムやエネルギー転換といったテーマが議論されていました。
参照:SXSW 2025 Conference Tracks / SXSW 2025 Schedule
03|AIを考えていたら、電力の話になる
ここ数年、私が面白いと思っているのは、「環境」という入口から入らなくても、別のテーマを追いかけているうちに、いつの間にかエネルギーや資源の問題にたどり着くことです。
分かりやすいのがAIです。
生成AIやデータセンターの規模が大きくなれば、それを動かす電力が必要になる。すると、AIの性能やサービスの話をしていたはずが、発電、送電網、蓄電、データセンターの立地、地域のインフラへと話が広がっていきます。
PERSPECTIVE
環境問題を解決するためにテクノロジーを見るのではなく、テクノロジーを追いかけていると環境問題にぶつかる。
この順序の変化は、かなり大きいと思っています。
04|2027年、「Cities & Climate」になった
そしてSXSW 2027では、Conference全体が13のTrackへ再編され、その一つとして「Cities & Climate」が設けられています。
SXSWはこのTrackを、Climate Tech、持続可能なインフラ、自然環境の保全などが、レジリエントな都市と地球の未来をどう形づくるかを探る領域として説明しています。
私は、SXSWのTrack名を毎年かなり気にして見ています。
もちろん、Track名が変わっただけで社会全体の認識が変わったとは言えません。それでも、その年に「何と何を同じ問題として扱おうとしているのか」は、カンファレンスが世界をどう分類しているかを見る一つの手がかりになります。
FROM SXSW 2027
Cities & Climate
Climate Techだけを独立して見るのではなく、都市、インフラ、自然環境、レジリエンスを同じ領域として考える。2027年のTrack構成には、そんな見方が表れています。
05|「グリーン」ではない企業も、気候の問題を抱える
SXSW Pitch 2027のカテゴリーを見ると、この広がりはさらに分かりやすくなります。
8カテゴリーの一つが、「Sustainability, Energy & AgTech」です。
対象として挙げられているのは、再生可能エネルギー、蓄電、電力網、排出削減、カーボンマネジメントだけではありません。水、循環経済、持続可能なサプライチェーン、グリーン建設、農業、代替タンパク質、食品廃棄まで含まれています。
エネルギー、食、農業、水、建築、物流。
以前は「環境問題に取り組む会社」を探していました。
今はむしろ、「環境と無関係でいられる会社」を探す方が難しくなってきています。
少なくともSXSWの分類を追っていると、私にはそう見えます。
06|2024年の私は、「グリーンテックが日常に入る未来」を描いていた
元記事では、紹介した技術が広がった先の日常も想像していました。
FROM 2024|当時描いていた未来の日常
・家庭で再生可能エネルギーを管理することが当たり前になる
・植物由来の代替食品が、特別な商品ではなく日常の選択肢になる
・環境負荷の小さい空調技術が、意識せず使うインフラになる
・化石資源への依存を減らした化学製品が、身の回りに入ってくる
いま読み返してみると、個々の予測が当たったかどうかより、自分がどんな順序で未来を考えていたのかの方が気になります。
私は、「環境技術が進歩する」→「それが生活に入ってくる」→「日常が変わる」という未来を描いていました。
でも今は、順序が逆だったのかもしれないと思っています。
環境技術が私たちの日常に入ってくるのではなく、私たちの日常を成立させる技術が、環境問題を無視できなくなっている。

2024年公開時の記事で使用したイメージ
「環境」は、いつ消えるのか
未来予報では、新しい言葉が生まれるときだけでなく、その言葉がいらなくなるときにも注目します。
たとえば「インターネット企業」という言葉を、今は以前ほど使いません。ほとんどの企業がインターネットを前提に事業をしているからです。
もしかすると「グリーンテック」も、いつか同じような道をたどるのかもしれません。
環境技術がなくなるのではなく、エネルギーにも、食にも、都市にも、AIにも、製造にも入り込んで、わざわざ「グリーン」と呼ぶ必要がなくなる。
2024年にこの記事を書いたとき、私はグリーンテックがつくる未来を見ていました。
2026年の今は、その言葉自体がいらなくなる未来の方が気になっています。
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文:宮川麻衣子 / Director of SXSW Japan / Futurist
元記事:「未来を予報する10日間。SXSWグリーンテックが変える私たちの『一歩先の日常』」 / 2024年9月公開
2026年9月 再編集



