SXSW JAPAN CASE STUDY|FIRST-TIME BUSINESS VISIT
JR東海のイノベーション推進室から、初めてSXSWへ。そこで強く記憶に残ったのは、予定していた視察先ばかりではありませんでした。専門外のセッション、街で出会った人、そして偶然見ることになったeVTOLの飛行。帰国後、それらは仕事の中で技術やパートナーを見るときの「判断の軸」になったといいます。
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この記事は、2025年4月9日に開催した「SXSW 2025報告会@名古屋」でのパネルセッションをもとに再編集しています。
ゲストはJR東海 イノベーション推進室の熊本さん。SXSW 2025への初参加を、行くまでの社内調整、Austinで実際に見たもの、予定外の出会い、帰国後に仕事へ残ったものまで振り返ってもらいました。
本文中の宿泊費は2025年参加時の実例です。開催年、予約時期、立地などによって大きく変動します。
熊本さんは、JR東海のイノベーション推進室で、未来の駅のあり方や新しい価値創出に関わっていました。
SXSWには以前から関心がありました。
ところが、実際に企業から参加しようとすると、Austinへ行くより先に一つの問いに向き合うことになります。
「SXSWって、何をする場所なの?」
音楽、映画、テクノロジー、スタートアップ、ブランド、都市、カルチャー。SXSWにはさまざまな領域が同時に存在します。
特定業界の展示会なら、「何を見るための出張か」は比較的説明しやすい。一方、SXSWはその境界が曖昧です。
熊本さんの初参加は、まずその場所を社内で説明するところから始まりました。
Austinへ行く前に、社内でSXSWを説明する
熊本さんは、SXSW Japanが公開していた事前資料なども使いながら、社内で参加の意味を説明していったと話していました。
「最新技術を見る」という目的だけでは、SXSWで行われていることの全体像とは少し違います。
技術のセッションの隣に、社会や文化についての議論がある。スタートアップの展示を見たあとに映画を観ることもできる。街へ出れば、公式プログラムとは別の企業や国のイベントが動いています。
熊本さん自身も、現地へ行く前から「何を見るか」をすべて決められていたわけではありませんでした。
それでも会社から参加する以上、なぜAustinまで行くのかを一度言葉にする。その作業が、初参加の最初にありました。
参加を決めたあと、次に現れたのはホテルだった
SXSWそのものとは別に、熊本さんが報告会でかなり具体的に話していたのが宿泊でした。
企業出張の場合、本人が参加を考え始めた時点と、社内承認を経て実際に予約できる時点には時間差があります。
熊本さんの場合、その時間差がAustinでの宿泊場所にも影響しました。
「中心部のホテルは1泊10万円超。やむなく20分離れた場所に泊まりましたが、それでも1泊7万円でした」
— JR東海 熊本さん / SXSW 2025参加時の体験
これはあくまで2025年の熊本さんのケースです。
ただ、「SXSWへ行こう」と考えることと、実際に会社の出張として航空券やホテルを押さえることの間にも、企業参加ならではの時間があることがわかります。
現地へ着くと、今度は「全部見られない」
Austinに到着して熊本さんが直面したのは、今度はプログラムの多さでした。
SXSWのアプリに並ぶタイムテーブルを、熊本さんは「スクロールしても終わらない」と表現しています。
同じ時間帯に、異なるテーマのセッションや展示、イベントが街の各所で進んでいきます。当然、一人ですべてを見ることはできません。
そんな中で熊本さんの記憶に残ったのは、普段の仕事に近いテーマばかりではありませんでした。
むしろ報告会では、普段の仕事と直接関係のない分野ほど、学びが深かったと振り返っています。
専門領域から離れた場所で聞いた話が、自分の仕事へ戻ったときに別の見え方をつくる。初参加の体験には、そんな場面がいくつもあったようです。
予定していなかったeVTOLを、目の前で見る
その象徴的な出来事が、LIFT AircraftのeVTOL「HEXA」でした。
SXSW 2025では、LIFT AircraftがLong CenterでHEXAのフライト体験とデモンストレーションを実施していました。参加者自身がトレーニングを受けて飛行するプログラムも用意され、CEOのMatt ChasenによるPersonal Flightについてのセッションも開催されています。
熊本さんが実機を見ることになったのは、最初から組んでいた予定ではありませんでした。
会場付近まで足を運んだ結果、プロパイロットによる実機のフライトを近い距離で見ることができたといいます。
「まさか自分が、あの距離感で見ることになるとは思わなかった」
— JR東海 熊本さん
eVTOLという言葉や技術について、資料やニュースから知ることはできます。
それが実際に人を乗せて飛び、目の前で動いている。
交通や駅の未来に関わる仕事をしている熊本さんにとって、その距離で実物を見る経験は強く記憶に残りました。
A MOMENT IN AUSTIN
予定表にはなかったeVTOLの実機飛行。
あとから振り返ると、それがSXSW 2025で強く残った光景の一つになった。
日本では会わなかった人と、Austinで会う
予定外だったのは、技術との遭遇だけではありません。
展示やセッションの合間に、熊本さんは日本から参加していた企業やスタートアップの人たちともつながっていきました。
報告会では、「日本にいても会えなかった人と、Austinで会えた」と振り返っています。
日本にいると、それぞれ別の会社、別の部署、別の業界で仕事をしている人たちです。
SXSWの期間中は、その人たちも普段の環境を離れ、同じ街を歩いています。セッションの前後や展示、食事、移動中と、会社では設定しにくい接点がいくつも生まれます。
熊本さんの初参加では、プログラムで「何を見るか」と同じくらい、そこで誰と出会ったかも体験の一部になっていました。
帰国して残ったのは、「判断の軸」だった
そして2025年4月、Austinから戻った熊本さんに「会社へ何を持ち帰ったのか」を聞きました。
そこで出てきたのは、商談件数や視察した技術のリストとは少し違う答えでした。
「今後、自分たちがどんな技術やパートナーと組むべきかを見極めるとき、SXSWで“来ると感じた技術”を思い出す。それが判断の軸になるんです」
— JR東海 熊本さん
SXSWで見たものを、そのままJR東海へ導入するという話ではありません。
数カ月後、数年後に新しい技術や企業と出会ったとき、「あのときAustinで見たもの」と比較できる。自分の中に、それまでとは違う参照点が一つ増えている。
熊本さんが「判断の軸」と呼んでいたのは、そういうものなのだと思います。
一週間の視察が、その後の仕事の中に残っていく
企業の海外視察というと、帰国直後に作るレポートや報告会までを一つの区切りとして考えがちです。
熊本さんの話を聞いていると、そのあとにも視察の時間は続いていました。
専門外で聞いた話。予定していなかった場所で見たeVTOL。Austinで初めて話した日本人。街を移動しながら感じた距離感。
それぞれは、その場ですぐプロジェクトになるようなものではありません。
けれども帰国後、新しい技術を見るとき、新しいパートナー候補と会うとき、未来の駅や移動について考えるときに、Austinで見た光景が比較対象として戻ってくる。
2025年4月の名古屋で熊本さんから聞いたのは、初めてSXSWへ行った人が「何を見たか」だけではなく、見たものがその後の仕事の中でどう残り始めていたかという話でした。
AFTER AUSTIN
持ち帰った情報が減っていっても、
一度見た未来が、その後の判断の比較対象として残ることがある。



