海外展示会への企業派遣を成果につなげる|サンパウロ州とSXSWの事例

SXSWとサンパウロの創造都市祭典

GLOBAL BUSINESS / SXSW CASE STUDY

海外展示会への企業派遣を、一度きりで終わらせない。ブラジルに学ぶ海外展開支援の仕組み

サンパウロ州がSXSWで実践する、企業派遣・共同拠点・帰国後支援

海外展示会や国際イベントに、地域の企業やスタートアップを派遣する。自治体や産業支援機関にとって、海外市場への進出を後押しする方法の一つです。

しかし、企業を海外へ送り出した後、どのように成果を生み出していけばよいのでしょうか。

現地での商談やネットワーキングを継続的な取引につなげるには、どんな準備が必要なのか。複数の行政機関が協力する場合、費用や役割をどう分担するのか。海外で得た知見を、参加企業だけでなく地域の産業全体に還元するにはどうすればよいのか。

こうした課題を考えるうえで、参考になる事例がブラジル・サンパウロ州にあります。

同州は2022年から、クリエイティブ産業の企業を海外の国際イベントに派遣する「CreativeSP」を実施してきました。派遣先には、カンヌ、フランクフルト、Gamescomなど、業界ごとの主要イベントが並びます。その一つが、米国オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)です。

さらに2024年からは、SXSWの会期中に「Casa São Paulo」という拠点を開設。現在は「SP House」として展開され、2026年には4日間で31,000人以上が訪れました。

興味深いのは、この拠点が単独の展示事業として存在しているわけではないことです。企業派遣制度、投資誘致機関、州・市の行政組織、民間企業の参加が組み合わされています。

その仕組みを、公開されている募集要項、運営情報、行政契約から見ていきます。

海外展示会への派遣は、旅費を補助するだけで十分なのか

海外展示会への参加支援というと、まず思い浮かぶのは出展費用や渡航費の補助かもしれません。

もちろん、資金的な支援は重要です。しかし、海外市場への進出を目的とするなら、参加すること自体を最終成果にはできません。

企業は、誰に会いたいのか。何を売り込み、何を確かめたいのか。その市場で自社の製品やサービスが受け入れられる可能性はあるのか。

こうした目的が曖昧なままでは、現地で多くの人と名刺交換をしても、その後の事業につながるとは限りません。

サンパウロ州のCreativeSPは、こうした課題に対して、企業の選定から渡航前の準備、現地での活動支援までを制度化しています。

CreativeSPは、企業をどう選び、送り出しているのか

CreativeSPは、サンパウロ州の文化・創造経済・創造産業を担当する部局と、投資誘致機関InvestSPが2022年に始めた国際展開支援プログラムです。

対象は、映像、ゲーム、広告、出版、エンターテインメント、テクノロジーなどの分野で活動する州内の企業・団体です。

2026年の公式募集案内には、次の条件が示されています。

支援項目CreativeSP 2026の内容
参加企業各ミッション最大15社
参加人数1社につき代表者1人
費用支援対象経費の最大50%、上限3,000米ドルを償還
対象経費航空券、宿泊、旅行保険、イベント参加資格など
渡航前2回の事前研修
現地InvestSPなどの担当チームが同行し、交流や機関訪問を支援
選定基準企業の実績、参加目的、国際展開戦略の明確さなど

特徴的なのは、企業が参加したいイベントを選ぶだけではなく、そのイベントに参加する目的や海外展開の戦略も審査対象になっていることです。

さらに、渡航前の研修と現地での支援が用意されています。

補助金の交付だけで終わらず、参加企業が海外で活動するための準備を支える制度になっています。

派遣先は、一つの展示会に限定されていない

CreativeSPは、SXSWだけを対象にした制度ではありません。

2026年の派遣先には、ベルリン国際映画祭、Game Developers Conference(GDC)、カンヌ国際映画祭、Cannes Lions、Gamescom、フランクフルト・ブックフェアなどが含まれています。

映像作品の国際展開を目指す企業と、ゲーム産業の企業では、出会うべき相手も参加すべきイベントも異なります。

CreativeSPは、業種や海外展開の目的に応じて複数の国際イベントを活用しています。

その中で、SXSWはテクノロジー、スタートアップ、映画、音楽、広告、メディアなど、異なる分野の参加者が集まる場として位置づけられています。

特定業界の取引先を探す展示会とは異なり、業界をまたいだ事業提携や、新しい市場・用途を探る企業にとって、SXSWの構成は検討する価値があります。

もちろん、どの企業にもSXSWが適しているわけではありません。目的に合うイベントを選び、参加前に活動計画を立てることが前提です。

なぜサンパウロ州は、SXSWに独自の拠点をつくったのか

SP HOuse

企業派遣制度が始まったのは2022年。その2年後の2024年、サンパウロ州はSXSW期間中のオースティンに「Casa São Paulo」を開設しました。

2025年以降は「SP House」として展開されています。

2026年のSP Houseは「We are borderless」をテーマに、Ideas StageとBusiness Stageという2つのステージを設けました。

Ideas Stageでは技術、創造性、社会への影響などをテーマにした議論が行われ、Business Stageでは企業や組織による交流・連携の機会が設けられました。

さらに、XR展示、アーティストの作品、映像収録スタジオ、サンパウロの食文化を紹介するエリアなども設置されています。

2026年には、Amy Webb、Ronaldo Lemosをはじめとする研究者や専門家、企業関係者などがプログラムに参加しました。

これは、企業がそれぞれ製品を展示するだけの場所とは異なる構成です。

例えば、文化やアートに関心を持って訪れた人が、サンパウロ州のスタートアップや企業の活動に触れる。ビジネス目的で訪れた人が、その地域のクリエイティブ産業を知る。

SP Houseは、サンパウロという地域の産業と文化を、一つの場所で紹介する拠点として設計されています。

来場者は3年間で大幅に増加

主催者の公表によると、SP Houseには2025年に約15,000人、2026年には31,000人以上が訪れました。2026年の増加率は前年比107%と発表されています。

来場者

2026年は4日間で58時間以上のプログラムが実施されました。

ただし、この来場者数はSP Houseへの来場実績であり、SXSW全体の参加者数でも、サンパウロ州の企業との商談件数でもありません。

拠点の認知や集客を示す数字としては重要ですが、海外展開支援の経済的成果とは分けて考える必要があります。

州政府、市政府、投資誘致機関。誰が何を担っているのか

役割

SP Houseの運営に関わるのは、一つの行政組織だけではありません。

中心となるのは、サンパウロ州の文化・創造経済・創造産業を担当する部局とInvestSPです。

InvestSPは、州への投資誘致や州内企業の国際展開支援などを担う機関です。

SP Houseにはサンパウロ市政府も関わり、市の事業振興機関SP Negóciosも参加しています。

2026年には、金融、テクノロジー、コンサルティング、文化関連など、幅広い企業・団体が協賛しました。

ここには、異なる目的を持つ組織が一つの国際イベントを活用する構造があります。

州の文化・創造産業政策、企業の海外展開支援、市のプロモーション、投資誘致。通常であれば別々に実施される可能性のある活動が、SP Houseという共通の拠点で展開されています。

では、複数の機関が同じ拠点を使う場合、費用や利用内容はどのように決められているのでしょうか。

その一端を示すのが、公開されている2025年の契約書です。

30万レアルの契約書から見える、共同拠点の使い方

サンパウロ市の事業振興機関SP Negóciosは、2025年3月、InvestSPとCasa São Pauloへの共同参加に関する契約を締結しました。

契約額は30万ブラジルレアル(約1000万円)です。

この契約書はSP Negóciosの公式サイトで公開されており、契約の目的、支払額、利用できるサービスが記載されています。

契約の中心は、Casa São Pauloのスペースを共同利用し、その費用を分担すること、そしてSP Negóciosを潜在的な顧客やパートナーに紹介することです。

契約には、具体的に次の内容が含まれています。

契約に記載された項目内容
企業向け事前研修「UPLOAD」SXSWのプログラム、現地の移動・宿泊、商談やネットワーキングの活用方法などを扱う研修
収録スタジオCasa São Paulo内のスタジオを利用できる1枠
会場内プロモーションサンパウロ市を紹介するためのブランド露出
映像・広報会場内LEDでの団体紹介、ロゴ、30秒のCM映像などの掲出

つまり、30万レアルはSXSWの参加証を購入するための費用でも、企業の渡航費補助でもありません。

SP Negóciosが共同拠点を利用し、企業支援や都市のプロモーションに必要な機能を確保するための契約です。

自前の展示拠点を持たなくても、必要な機能を確保できる

この契約から読み取れるのは、海外拠点への参加方法の一つです。

海外イベントで独自の展示スペースを設営する場合、会場の確保、施工、運営スタッフ、広報、来訪者への対応など、さまざまな準備が必要になります。

一方、共同拠点であれば、すでに用意された設備やプログラムの一部を、各機関の目的に応じて利用する方法が考えられます。

SP Negóciosの契約では、研修、映像収録、ブランド露出など、利用する機能が具体的に定められています。

もちろん、この30万レアルが独自出展より安かったかどうかは、比較できる費用資料がないため判断できません。

また、日本の自治体が同じ契約方式を採用できるとは限らず、予算の目的や調達手続きなどは個別に検討する必要があります。

それでも、複数の機関が共通の拠点を使い、それぞれの活動に必要な機能を契約で定めるという方法は、海外での共同事業を設計する際の参考になります。

来場者31,000人。その先の成果をどう測るのか

SP Houseの来場者数は増加しています。しかし、海外展開支援の成果を判断するには、もう少し細かい数字が必要です。

例えば、派遣企業が現地で何件の商談を行ったのか。帰国後も交渉が続いている相手はいるのか。契約や投資、共同開発につながった案件はあるのか。これらは、来場者数とは別の指標です。

InvestSPはCreativeSP全体の成果として、2025年上半期に49社を5つのイベントへ派遣し、3億3,000万レアルを超える事業創出見込みを公表しています。

ただし、これは複数イベントを対象としたプログラム全体の見込み額です。

海外で得た知見を、地域に持ち帰る「Download SXSW」

サンパウロ州の取り組みには、もう一つ注目したい活動があります。

2026年5月5日、サンパウロ市内のTeatro Sérgio Cardosoで「Download SXSW 2026」が開催されました。

主催者発表によると、約900人が参加。SXSWで取り上げられたAI、創造性、ビジネス、社会への影響などについて、現地で得た知見を共有しました。

午前中は企業関係者、投資家、行政関係者などを対象とした議論が行われ、午後には文化・教育機関の学生や教育関係者も参加しています。

このイベントは、SXSWでの商談成果を示すものではありません。

しかし、海外に渡航できた企業や担当者だけで情報を保有するのではなく、現地で議論されたテーマを地域の人々へ届ける活動として位置づけられます。

海外派遣事業では、参加者が報告書を提出したり、帰国後に成果報告会を開いたりすることがあります。

Download SXSWは、それを企業支援の関係者だけに限定せず、学生や地域のクリエイティブ産業にも広げた事例です。

一方で、Download SXSWの開催と、派遣企業の商談・事業展開の継続支援は別の活動です。知見共有イベントの実施だけで、企業への事後支援が十分に機能していると判断することはできません。

日本の自治体や企業は、何を参考にできるのか

日本でも、自治体や産業支援機関が海外展示会への出展、スタートアップの派遣、現地での商談支援などを行っています。

SXSWでも、愛知県や京都の企業・スタートアップなどが参加してきました。

自治体はSXSWをどう活用できる?|愛知県の継続参加に見る海外連携のつくり方

京都のスタートアップがSXSWへ。Austinで「Kyoto」はどう見えた?

サンパウロ州の事例を参考にするとき、最初から大規模なHouseを設置する必要はありません。

まず考えられるのは、既存の海外展開支援制度の中で、企業がどの市場や相手に接点を求めているのかを整理し、目的に合う国際イベントを選ぶことです。

技術やサービスを特定業界の顧客へ販売したいのであれば、専門展示会が適している場合もあります。一方、異なる業界との提携や、新しい用途・市場を探りたい企業には、SXSWのような分野横断型のイベントが候補になります。

その上で、参加前の研修、現地でのネットワーキング、帰国後の商談継続を支援する方法を検討できます。

複数の自治体や産業支援機関が参加するなら、共同の交流会や情報発信拠点を設け、それぞれが必要とする機能を分担する方法も考えられます。

そして、参加企業が得た成果と、地域全体への情報還元を別々に評価する。

サンパウロ州の取り組みは、こうした活動を一つの制度として考えるための具体例です。

海外市場との接点を、継続的な企業支援につなげる

サンパウロ州は、2022年にCreativeSPを始め、2024年にはSXSW期間中の共同拠点を設けました。

2025年の公開契約書からは、市の事業振興機関がその拠点の機能を利用するために費用を分担していたことがわかります。

2026年にはSP Houseの来場者数が31,000人を超え、帰国後には約900人が参加する知見共有イベントも開催されました。

これらはそれぞれ目的の異なる活動であり、一つの成果指標で評価できるものではありません。

それでも、企業を海外へ送り出す制度、現地で交流する拠点、複数機関による役割分担、地域への知見共有が並行して進められている点は、日本の海外展開支援を考えるうえで参考になります。

海外展示会や国際イベントは、企業が新しい市場やパートナーに出会う機会です。

その効果を高めるには、参加する企業の目的に合うイベントを選び、現地での活動を準備し、帰国後も関係を継続できるようにする必要があります。

SXSWも、そのために活用できる国際イベントの一つです。

テクノロジー、ビジネス、映画、音楽、文化などが同じ都市に集まるSXSWの特徴を、企業や地域の目的にどう結びつけるか。

サンパウロ州の事例は、その具体的な設計方法を考える材料を提供しています。

自治体・企業の海外展開にSXSWを活用するには

SXSW Japan Officeでは、自治体、産業支援機関、企業の目的に応じて、SXSWへの参加、出展、共同企画、国際交流などについてご相談を受け付けています。

海外市場への進出や新しい事業パートナーとの接点づくりを検討されている方は、参加方法についてお問い合わせください。